まばら)” の例文
頼みたく今日は和女そなたの歸りをば實は二個ふたりで待てゐたりと言ばお金はまばらなるあらはして打笑ひ然いふ目出度お話と聞ては吾儕わたしも實にうれしく斯いふ事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
みちは白くぼうとなっていた。右側の畑地はたちの中にまばらった農家は寝しずまって、ちょっとした明りも見えなかった。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いっ今夜こよいはこのままで」トおもう頃に漸く眼がしょぼついて来てあたまが乱れだして、今まで眼前に隠見ちらついていた母親の白髪首しらがくびまばら黒髯くろひげが生えて……課長の首になる
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
隣室の踊場のジャズ・バンドが気狂きちがいのように太鼓をたたいた。まばらなシュミーズをつけたレムブルグの女弟子が部屋に飛込むと陳子文がバルコニで自殺したことを告げた。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
地上にはそれにつれて大きなまばらをなして日陰と日の照るところとが鬼ごっこでもしているように走り動いていた。せかせかする気忙きぜわしいような日であった。人の心も散漫と乱れて、落ちつかなかった。
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
もう客足がまばらになってそこには前のすぐストーブの傍のテーブルに、一組三人の客がいるばかりであたりがひっそりして、その店に特有な華やかな空気がなくなっていた。
青い紐 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ある、宿を取り損ねて日が暮れてしまった。星がまばらに光っていた。路のむこうには真黒な峰が重なり重なりしていた。路は渓川たにがわに沿うていた。遥か下の地の底のような処で水の音が聞えていた。
殺神記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
短い草がまばらに生えて虫が鳴いていた。瓶は十五六もあった。
藍瓶 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)