敷布シーツ)” の例文
彼は敷布シーツのふちをって引きあげると、死人の全身はあらわれた。死体はすべて赤裸で、蝋燭のひかりのもとに粘土色に黄いろく見えた。
またある時は、あの白いおおいの下で彼女が足を動かして、波打った長い敷布シーツのひだをかすかに崩したようにさえ思われました。
秋は洗ひたての敷布シーツの樣に快かつた。太郎は第一の街で夏服を質に入れ、第二の街で牛肉を食つた。微醉して街の上へ出ると正午のドンが鳴つた。
太郎と街 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
敷布シーツもない薄い敷蒲團に海老のやうに縮まつてゐる姿が可愛らしかつた。夜が更けるにつれて、雨の音は激しくなつた。
(旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
下へおりて見ると、玄關脇の小部屋でかみさんは敷布シーツを疊んでゐた。亭主の姿は見えなかつた。もう入營したのだらう。
大戦脱出記 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
敷布シーツの先を伝わって、雨滴れの合間を縫って……そうしてその時も、地蟲のしわがれたような声を聴いたのである。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
例の忍返しのびがえしを打ちつけたような髪の毛で敷布シーツをずたずたに裂きそうにしながら、蒲団の上へぬっと起き上った。
が、ヴェリチャーニノフの二度目の大喝にあうと、急にそそくさと全速力で仕度にとりかかり、卓子を横へ片寄せ、ふうふういいながら敷布シーツをひろげて敷きはじめた。
敷布シーツが落ちた。『イワーシ!』とピドールカが叫んで駈け寄つた。すると幻影まぼろしは足の先から頭の天辺まで、全身血まみれになつて、家ぢゆうを赤い光りで照らした……。
二階の北側の一番奥の部屋は、客用の羽根蒲団クッション敷布シーツ、不用の絨毯じゅうたん等の置き場として、現在用いられている。しょっちゅう出し入れするために、鍵がかけられていない。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
それをお鶴は暖かな床の上に敷いて、その上に白い敷布シーツを掛けながら
灯火 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
大地主は敷布シーツのように蒼白な顔をして坐っていて、自分がみんなをこんな災難に陥れたことを考えていた。善良な人だ! 六人の前甲板の水夫の中の一人も大地主と同じくらいの顔色をしていた。
晩年には益々こうじて舶来の織出し模様の敷布シーツを買って来て、中央に穴を明けてスッポリかぶり、左右の腕に垂れた個処を袖形そでがたって縫いつけ、まる酸漿ほおずきのお化けのような服装なりをしていた事があった。
レエヌは、いらだって、敷布シーツの端をもみくしゃにしながら
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その男というのは、顔を仰向けて、半身を敷布シーツにおおわれて、両腕をからだのそばに伸ばして、テーブルの上に横たわっていた。彼は死んでいるのである。
ほんとうにお姉さまは、末起ちゃんのために二年越しの敷布シーツのうえがすこしも淋しくはありません。
方子と末起 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
三発の弾痕から鮮血を雪白せっぱく敷布シーツほとばしらせて、まったく一糸まとわぬ裸体のままで仰臥ぎょうがしていたのには、思わず面を背けずにはいられなかったと立会いの警官たちも述べていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
たとへどんなことがあらうとも、人間の、ましてや罪もない子供の首を斬り落すなどといふことがどうして出来るものか! 彼は赫つとなつて子供の頭に巻かれた敷布シーツを引きはいだ。
古い陶器や白鑞ピューターの食器のほかに珍らしい革の徳利(牧場用)が天井から下っていたり、二階の寝室には彫のある寝台に「万年敷布シーツ」がまだ昔のまま掛けられてあったり、今から見ると質素ではあるが
シェイクスピアの郷里 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
そうら敷布シーツ、それから夜着
そのテーブルの上には、かのおおわれたる死体が、敷布シーツの下に行儀よく置かれてあった。
『駄目なこつちやよ、お主が人間の血を手に入れるまでは、その黄金かねを見る訳にはいかんのぢや!』さう言つて妖女ウェーヂマは、彼の前へ白い敷布シーツにくるまれた六つぐらゐの子供をつれて来て
部屋の真ん中には、真新しい敷布シーツおおわれた大きな寝台ベッドが据えられて、高い天井や大きな家具、調度類……しわくちゃになった襯衣シャツのまま、横になるのがはばかられるような、豪華さでした。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
今も今とてうわさしたマヌエラ嬢だった。彼女は、真白な洗いたての敷布シーツのようにどこからどこまで清潔な感じのする娘だ。座間とは婚約の仲、また人道愛の仕事の上でもかたく結びついている。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)