擦付すりつ)” の例文
何しろ、其奴そいつの正体を見届けようと思って、講師は燐寸まっち擦付すりつけると、対手あいてにわかに刃物をほうり出して、両手で顔を隠してしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼はこの長者のくるしめるをよそに見かねて、貫一が枕に近く差寄りてうかがへば、涙の顔をしとね擦付すりつけて、急上せきあげ急上げ肩息かたいきしてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
と云いながら栗の根株へ両人ふたりの顔を擦付すりつけますから、両人とも泣きながら
老婆は額を地に擦付すりつ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この心を知らずや、と情極じようきはまりて彼のもだなげくが手に取る如き隣には、貫一が内俯うつぷしかしら擦付すりつけて、巻莨まきたばこの消えしをささげたるままによこたはれるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼は又もや燐寸まっち擦付すりつけようとする時、人か獣か何か知らぬが、けわしい岩を跳越はねこえてひらりと飛んで来た者がある。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とマチで火を擦付すりつけ、煙草に移し一口吸い
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けしからぬ女かな、といかりの余に手暴てあら捩放ねぢはなせば、なほからくもすがれるままにおもて擦付すりつけて咽泣むせびなきに泣くなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)