手隙てすき)” の例文
翌朝よくあさは女が膳を運んで来たが、いざとなると何となく気怯きおくれがして、今はいそがしそうだから、昼の手隙てすきの時にしよう、という気になる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
晩方少し手隙てすきになってから、新吉は質素じみな晴れ着を着て、古い鳥打帽を被り、店をお作と小僧とにあずけて、和泉屋へ行くと言ってうちを出た。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
一日や二日は無事であったが三日目の午後、手隙てすきを見て例の通り裏の畑の隅の便所の脇で夢中に読んでいると、祖母がいつものように足音を忍ばせながらやって来たらしかった。
「あの若衆に一ぱいあげたいから、手隙てすきになったらここへ来るように言っておくれ」
道中記をけるもものうし、る時帳場で声を懸けたのも、座敷へ案内をしたのも、浴衣を持って来たのも、お背中を流しましょうと言ったのも、皆手隙てすきと見えて、一人々々入交いれかわったが、根津
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは幸野楳嶺かうのばいれいふくを持合せて居る男が、一度手隙てすきにその画を鑑定して貰ひ度いと言つて来たから起きた事なので、はくをつけるといふ事は、滅多に人に会はない事だと思つてゐる栖鳳氏も
ようやく第二の法王の具足戒ぐそくかいが済み役人達も手隙てすきになり私のひそかに立去った事を知ったところで、どの方面へ逃げたろうかと始めて穿鑿せんさくに掛ってこちらへ追手おってを向けるということになるのでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
憤然やっきとなって二日二晩も考えた末、又一策を案じ出して、今度は昼のお糸さんの手隙てすきの時に、何とか好加減いいかげんな口実を設けて酒を命じた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
婚礼沙汰ざたが初まってから、毎日のように来ては養父母と内密ないしょはなしをしていた青柳は、その当日も手隙てすきを見てはやって来て、床の間に古風な島台を飾りつけたり
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この間までりました、山田の新町の姉さんが、朝と昼と、手隙てすきな時は晩方も、日に三度ずつも、あのんで含めて、胸を割って刻込むように教えて下すったんでございますけれど、自分でも悲しい。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんなものを、小野田は店の仕事の手隙てすきに縫うことにしていたが、川西はそれを余りよろこばないのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「少し手隙てすきになったら、一度お作を訪ねて、奴にもよろこばしてやろう。」などと考えた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
少しお話したいこともあるから、手隙てすきのおり来てくれないかという親展書であった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
先代の時から続いてやっている、確な人に委せて、監督させてある北海道の方へも、東京での販路拡張の手隙てすきには、年に一度くらいは行ってみなければならぬことも話して聞かせた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「阿母さんの手隙てすきに洗濯や縫直しをしてもらいたいものがありますから。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)