手挾たばさ)” の例文
新字:手挟
黒七子くろななこの紋つき着流しのまま、葛籠笠を片手に、両刀を手挾たばさんで梯子段へかかる大次郎のうしろから、法外老人と千浪が送りにつづいて口ぐちに
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二本手挾たばさむ望もないが、幸ひ娘のお玉は氣象者、顏かたちも親の口からは申し憎いが先づ十人並に勝れて生れついて居る。
かれここに天の忍日おしひの命あま久米くめの命二人ふたり、天の石靫いはゆき一三を取り負ひ、頭椎くぶつちの大刀一四を取り佩き、天の波士弓はじゆみを取り持ち、天の眞鹿兒矢まかごや手挾たばさみ、御前みさきに立ちて仕へまつりき。
……だが両刀を手挾たばさむ身分だ、見込んで頼むといわれては、どうも没義道もぎどうに突っ放すことは出来ぬ。どうもこれは困ったぞ。……いや待てよ、この老人には、美しい娘があった筈だ。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
荒男あらしをのい小箭をさ手挾たばさみ向ひ立ちかなるしづみ出でてとが来る」(巻二十・四四三〇)は「昔年さきつとし防人さきもりの歌」とことわってあるが、此歌にも、「かなる間しづみ」という語が入っている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
勝色定紋かちいろじょうもんつきの羽二重の小袖に、茶棒縞の仙台平せんだいひらの袴を折目高につけ、金無垢の縁頭ふちがしらに秋草を毛彫りした見事な脇差を手挾たばさんでいる。どう安くふんでも、大身の家老かお側役といったところ。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
太田君は紺絣こんがすりの単衣、足駄ばきで古い洋傘こうもり手挾たばさんで居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
を塗つて、くまを入れた顏、尺八を持つて一刀を手挾たばさんだ面魂は、五尺五六寸もあらうと思ふ恰幅の、共に如何樣敵役に打つて付けの油屋兼吉です。
一人娘の嫁入りの儀式につらなる禮裝の麻裃あさがみしも、兩刀を高々と手挾たばさんだのを、後ろに廻して、膝の汚れも構はず、乘物の中に手を突つ込み、娘の首を起してハツと息を呑みました。
田屋三郎兵衞といふいかめしい名は、二本手挾たばさんだ時の名をそのまゝ、器用と小祿で覺えたアルバイトのかざりを、浪人した後の暖簾のれん名、田屋の三郎兵衞と名乘つたといふことでした。
手挾たばさんで居りました、若氣の過ちで、隨分我儘氣隨な振舞もいたしましたが、それはもう昔のことで——町人になつてからは、人と爭はないやうに、そればかり氣をつけて參りましたが
蒼白い顏と、華奢きやしやな身體を見ると、兩刀は手挾たばさんでも、武藝などとは縁の遠い男に見えますが、その代り眼の鋭い、鼻の高い、細面の唇のよく締つた、如何にも智慧と意志を思はせる顏立ちです。
それは、若くて貧乏臭くさへありましたが、短いのを前半に手挾たばさんで、長いのは木戸のあたりで、鞘ごと腰から拔き、右手に持添へて小腰を屈めたあたりは、なか/\に、好感の持てるたしなみです。