我家わがいえ)” の例文
文蔵は仮親かりおやになるからは、まことの親と余り違わぬ情誼じょうぎがありたいといって、渋江氏へ往く三カ月ばかり前に、五百を我家わがいえに引き取った。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けれども起き直って机に向ったり、ぜんに着いたりする折は、もうここが我家わがいえだと云う気分に心をまかして少しも怪しまなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸外おもてには風の音、さらさらと、我家わがいえなるかのかえでの葉をならして、町のはずれに吹き通る、四角よつかどあたり夕戸出ゆうとでの油売る声はるかなり。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昨三十七年は我家わがいえの大厄難たるも、幸にして漸く維持を得たるを以て、尚本年は最も正直と勤倹とを実行し且つ傭人やといにん等に成丈なるたけ便宜を与えん事を怠らず
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
伯母は顧み「お代やお泣きでないよ」と言えどお代はオイオイ泣きながら起上り、どんぐりまなこより大きな涙をポタリポタリ落して我家わがいえかたへ走り行く。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一 婦人は夫の家を我家わがいえとする故に唐土もろこしにはよめいりを帰るといふなり。仮令夫の家貧賤成共なりとも夫を怨むべからず。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
文三はホッと吐息をついて、顧みて我家わがいえの中庭を瞰下みおろせば、所狭ところせきまで植駢うえならべた艸花くさばな立樹たちきなぞが、わびし気にく虫の音を包んで、黯黒くらやみうちからヌッと半身を捉出ぬきだして
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
能々よく/\見ると刀屋の番頭重三郎ゆえびっくり致し、二人を同伴して我家わがいえへ立帰りましたが、荷足の仙太郎の宅は伊皿子台町でございますが、只今もって残りおりまする豆腐屋がありますが
我家わがいえは北海道十勝国とかちのくに中川ごおり本別村ぽんべつむらあざ斗満の僻地に牧塲を設置し、塲内に農家を移し、力行りょっこう自ら持し、仁愛人を助くることを特色とし、永遠の基礎を確定したる農牧村落を興し
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
自分はどうにかして旧恩に報いなくてはならない。自分の邸宅には空室くうしつが多い。どうぞそこへ移って来て、我家わがいえに住む如くに住んでもらいたい。自分はまずしいが、日々にちにちの生計には余裕がある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此れ我家わがいえの不注意と、預り人の怠りとに由るなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)