おそ)” の例文
そも何事の起れるや、問ふ人のみ多くして、答ふる者はなし。全都ぜんとの民は夢に夢見る心地して、只〻心安からずおそまどへるのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
前の世の罪ででもある事か、と自ら危ぶみ、おそれ、惑い、且つあやしんでいた葛木は、余りの呆気あっけなさにかえって驚いたのである。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ア・バイの壁の隙間から一部始終を覗いていた夫のギラ・コシサンは、半ば驚き半ばよろこび、大体に於ておそれ惑うた。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
さて拙者はここを立ち退き船山城へ伺候致し須々木豊前殿へ仕官する所存、苦情があらば遠慮なく船山城の方へ申し越されい。永居はおそれハイ左様なら!
郷介法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
象月に謝罪せんとて鼻を水に入るるに水掻き月影倍多ふえたり、兎象に向い汝湖水をみだせし故月いよいよいかると言い象ますますおそゆるしを乞い群象をひきいてその地を去る
この已来このかた秋稼しうかに至り風雨ついでしたがひて五穀豊かにみのれり。此れすなはち誠をあらはし願をひらくこと、霊貺りやうきやう答ふるが如し。すなはおそれ、載ち惶れて以てみづかやすみするとき無し。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「おお神さま」アラスデルは声をひそめて、おどろきの眼のなかに深いおそれを見せて言った。
漁師 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
朝家にむごたゝりをなして天が下をば掻き乱さむ、と御勢ひ凛〻しくげたまふにぞ、西行あまりの御あさましさに、滝と流るゝ熱き涙をきつと抑へて、恐るおそるいさゝかかうべもたげゝる。
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼は始めて心安う座を取れば、恐るおそる狭山はづその姿を偸見ぬすみみ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
孔寧と儀行父はおそれ慌てて家にも戻らずに、直ぐに其の足で楚国へ難を避けた。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
オランはあわれみとおそれと交った低い優しい声で呼びかけた「師よ、師よ」
魚と蠅の祝日 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
その声は蜜のように優しかった、そして栄光の深いおそれに包まれていた。
海豹 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
「この人たちは誰でしょう」私はおそれのために震えながら訊いた。
最後の晩餐 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
オランはおそれの低い声で言った「おお、神よ」
魚と蠅の祝日 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)