恟々おどおど)” の例文
「まだ、ひき受けたものの、おめえも恟々おどおどしているだろうが、御城内へはいってから、半月も働いているまには、自然、はらもすわってくる」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘ちゃんがそばへ来ると、最う私は恟々おどおどして、呉れと言わないうちから持ってる物を遣り、勘ちゃん、あの、賢ちゃんがね、お前の事を泥棒だッて言ってたよと、余計な事迄告口つげぐちして
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
男女の大人たちは、その事をそう秘密に、不自由に、恟々おどおどとして、行ってはいない。いくらでも、童女童子たちは、それを見ることができる。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷は、日にましてくなって行ったが、お信も、それを心にむらしかった。兄に対して、何か、悔悟かいごと、叱責しっせきを、恟々おどおどと待つ気ぶりも見える。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにを恟々おどおどと、こんな真似をするのか。おれが、盗もうとしているのは、実は、おれの中にあるものに過ぎないじゃないか。……おれの中の欲望
その高瀬の肩に、甘えかかって、何か、恟々おどおどとささやいているお槙へ、何か言ってやろうかと思ったが、ここではやめた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしが、恟々おどおどと、お脚元あしもと間近まで、はい上がってゆくと、びしゃりと、猿殿はわしの背中を鉄扇で一つ叩いていわれた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恟々おどおどと、彼女は歩いて、元の滝見小屋の所まで戻って来た。そこにも、武蔵の姿は、見当らなかった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、“街のダニ”ともいうべき悪辣あくらつな男のわなにかかった始末を、ようやく恟々おどおどと打ちあけだした。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
気の小さい温醇おんじゅんな男らしく、どこかに持病じびょうでもあるのか、艶のない黄ばんだ皮膚をしていて、細い眼のうちが薄黒く見え、その眼は絶えず、俯目ふしめになって、恟々おどおどしていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝をあだとつけ狙う、安成三五兵衛はここに来ているぞ! 今宵のうちに逃亡してゆけ、そして、また恟々おどおどと何処かで休まらない眠り場所と、落着けない生活を見つけておけ。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(世間へ、明国とは、こういう国だということを、教えてやろう。……そしたらかえって、於福も自覚をもって、自分のうけた血に、恟々おどおどせず、内気がなおるかもしれない)
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
機嫌を損ねた将軍家の顔いろに恟々おどおどしながら御風呂女中が、衣服を着せ、髪をでつける。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恟々おどおどと、武蔵は彼女のそばへ座を占め、一同にならって、ぎごちなく両手を炉へかざした。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼少から母に聞かされている平馬様とは——いや今は敦賀城つるがじょうあるじとなっている大谷刑部吉継様とは、どんな人であろうか? ——恟々おどおどと胸の縮まるうちにも想像してひかえていた。
大谷刑部 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにもいじけた——恟々おどおどした眼で、密談がすむと、すぐ起って、障子しょうじを開けた。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暢気のんきなことをいうではない。今にも、戦いが、この堺が、兵火に焼き立てられるかと、みんな恟々おどおどしている中に、招かれたお客こそ、どんなに迷惑であろうと、お察ししているのじゃ」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこの——時代の激潮に恟々おどおどしている名門の二世を自家の秘室へ呼んで
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼朝の顔が、ろうみたいに白くなった。さすがに眸も恟々おどおどしはじめていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
素直なむすめのやや恟々おどおどしている眸を見ると、彼は可憐いじらしくもなって
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いて、恟々おどおどなどしていると、あたりの鋭い白眼が、たちまち酒気と敵愾心てきがいしんに駆られて、何をやり出すかも知れない——実に、間髪の危機といってもいい、殺気のなかに彼はいたからである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひげがのびて、くぼんだ眼が、どこかまだ恟々おどおどと光っている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして彼女の恟々おどおどした眼をじいっと見て
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そう叱られても、又八は恟々おどおどした眼で
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして何をされるかと、恟々おどおどとして
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)