思索しさく)” の例文
思索しさくの中から生まれた、新しい知恵の言葉があり、それが次郎をして同じ講義を何度きいてもあかせない魅力みりょくになっていたのであった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「おかあさん、感情家だけではいけませんよ。生きるという事実の上に根を置いて、冷酷れいこくなほどに思索しさくあゆみを進めて下さい。」
巴里のむす子へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今日における我々日本の青年の思索しさく的生活の半面——閑却かんきゃくされている半面を比較的明瞭めいりょうに指摘した点において、注意にあたいするものであった。
一口でいうと、自己本位という四字をようやく考えて、その自己本位を立証するために、科学的な研究やら哲学的てつがくてき思索しさくふけり出したのであります。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
事実、彼には、孔子の前にいる時だけは複雑な思索しさくや重要な判断は一切いっさい師に任せてしまって自分は安心しきっているような滑稽こっけいな傾向も無いではない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
むしろ最も官能の正しくひろく澄みきった近代人の声として常に新しい反省と若い思索しさくをよび起されるのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うさ。お前だツておれ大嫌だいきらひなことをよろこんでツてゐることがあるぢやないか。げんおれ思索しさくふけツてゐる時にバイヲリンをいたりなんかして………」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
つまり、魚心堂先生の釣りは、先生の哲学てつがくであり、ぜんであり、思索しさくであり、生活である——こういうやかましいいわれから来て、魚心堂先生の名もある訳……。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私は知人の訃報を得る度に感ずる痛ましさと寂しさとに打たれつゝ、また人生に對する思索しさくを新たにして、ぼんやり其の葉書を卷いたりばしたりしてゐた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
しかし彼はその中の一篇、——「リイプクネヒトを憶ふ」の一篇に多少の自信をいだいてゐた。それは緻密ちみつ思索しさくはないにしても、詩的な情熱に富んだものだつた。
或社会主義者 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
朝倉先生は、それを大河の人間愛の深さや思索しさくの深さがそのまま実践力の強さになっているからであろう、というふうに判断したのだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
復一はこの頃から早熟の青年らしく人生問題について、あれやこれや猟奇的りょうきてき思索しさくに頭の片端を入れかけた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
けれどもうちいては、讀書どくしよ思索しさくも、まる出來できなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
陽気で無邪気なかの女はまた、恐ろしく思索しさく好きだ。思索が遠い天心てんしんか、地軸にかかっている時もあり、優生学ゆうせいがくや、死後の問題でもあり、因果律いんがりつや自己の運命観にもいつかつながる。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)