いら)” の例文
旧字:
然し、その理由を是非にも聴こうとする衝動には、可成り悩まされたけれども、杉江はただ従順すなおいらえをしたのみで、離れを出た。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
グッと、身を斜めに、かごに、重みをかけて、今にも、やわ作りの乗物を、踏み抜こうやに見せかけたが、相手は、なおも、いらわなかった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
用意洩れなくととのえて待ち受けていべきはずの与惣次が——? 小太郎は首を捻って、勘次ともどもまた激しく戸を打ったが、何のいらえもない。
口は半ばほころびてゐたが、なんのいらへもない。あたりには蠅の羽音ひとつ聞えぬ。
只「そういうお心細いような折こそ、どうぞこれからは私を頼りになすって戴きたいものです。そんなものなんぞ、私は少しもこわがりはいたしませんから——」といらえるばかりで
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ひそかに部屋の戸を開きて外にいづれば悽惻せいそくとして情人未だ去らず、泣いて遠国につれよとくどく時に、清十郎は親方のなさけにしがらまれて得いらへず、然るを女の狂愛の甚しきにかされて
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
大なる森の中で、農園から農園へと、吠え声は休みなくいらえ合っていた。夜は騒々しかった。そういうときに眠るのは容易でなかった。風は多くの不正の反響を空中に運び回っていた。
ふるい家が、鷹揚に軋んで、それにいらへしてゐるのが、聴きとれる。ふかい夜を。
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
われ思はず方丈の窓を引き開きて言葉鋭く、何事をするぞと問ひなじりしに、馬十かたの如く振り返り、愚かしき眼付にてわれを見つめつゝ、もや/\とあざみ笑ふのみ。とみにはいらへもせず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いつまで待ってればよいのやら、更に見当がつかなかった。しまいに谷山は焦れだして、小さな石を一つ二階の雨戸に投げつけてみた。何のいらえもなかった。身体がぞくぞく冷えきっていった。
神棚 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
心に思ひ給ふこといらへ給ひね、洩れなくと
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
わたしの内部なかで 強気に さういらへするもののこゑがしてゐる
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)