御館みたち)” の例文
若人等は、この頃、氏々の御館みたちですることだと言って、そのの池の蓮の茎を切って来ては、藕糸はすいとを引く工夫に、一心になって居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
京都に於て、当時第一の名門であつた、比野大納言資治卿ひのだいなごんやすはるきょう(仮)の御館みたちの内に、一日あるひ人妖じんようひとしい奇怪なる事が起つた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
侍女は上眼づかひに「御館みたちに残らるるは上の姫様だけ」と答へる。「ジェイン様か、それは。」碩学の肉づきのいいひたいを、かすかに若皺わかじわが寄る。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
われは物語の昔日のあやまちに及ばんことをおもんぱかりしに、この御館みたちを遠ざかりたりしことをだに言ひ出づる人なく、老公は優しさ舊に倍して我を欵待もてなし給ひぬ。
我等の居りし處は御館みたち廣間ひろまにあらずゆかあらく光乏しき天然の獄舍ひとやなりき 九七—九九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
足達者なものはよい銭稼ぜにかせぎを与えようぞ、御館みたちの丘へ集まれ、とのこと。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若人等は、この頃氏々の御館みたちですることだと言つて、苑の池の蓮の茎を切つて来ては、藕絲はすいとを引く工夫に一心になつて居た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
卑俗なたとえだけれど、小児こどもが何とかすると町内を三べん廻らせられると言つた形で、此が大納言の御館みたちを騒がした狂人であるのは言ふまでもなからう。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わかれの舞踏會は御館みたちにて催されぬ。われは姫の最後に色あるきぬを着け給ふを見き。是れ人々の生贄いけにへこひつじを飾れるなり。
この御館みたちも、古いおところだけに、心得のある長老おとなの一人や、二人は、難波へも下らずに、留守に居るので御座りましょう。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
作者は、くわしく知らないが、これは事実ださうである。わらわの影もない。比野卿の御館みたちうちに、此の時卿を迎ふるのは、ただ此のかたたちのみであつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今宵はとおもはれし日の午過ひるすぎて、われは羅馬の御館みたちに參りしに、檀那はチヲリに往き給ひし後なりき。歸りて見れば、母は息絶えたり。言ひをはりて、ピエトロは手もて面をおほひぬ。
この御館みたちでも、かふこは飼つて居た。現に刀自たちは、夏は殊にせはしく、不譏嫌ふきげんになつて居ることが多い。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
身狭乳母むさのおもの思ひやりから、男たちの多くは、唯さへ小人数な奈良の御館みたちの番に行けと言つて還され、長老おとな一人の外は、唯雑用ざふようをする童と奴隷やつこ位しか残らなかつた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
其より外には、ほうもつかなかった。奈良の御館みたちの人々と言っても、多くは、此人たちの意見を聴いてする人々である。よい思案を、考えつきそうなものも居ない。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)