御成道おなりみち)” の例文
なんでも二、三日まえ、あいつが御成道おなりみちの横町を通ると、どこかの古道具屋らしい奴と紙屑屋とが往来で立ち話をしている。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はっきり覚えているのは、下谷の御成道おなりみちの太助だなという長屋にいたときのことで、おせいは五歳だったが、母親は良人おっとと娘を捨てて出奔した。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
毅堂が上総国久留里かずさのくにくるりの藩主黒田豊前守直静くろだぶぜんのかみなおちかに聘せられ下谷御成道おなりみちの上屋敷に出仕したのはあたかもこの時分であろう。毅堂は十人扶持を給せられた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なアにだれがあんな所へくもんか、まアきみ一緒いつしよたまへ、何処どこぞで昼飯ひるめし附合給つきあひたまへ。乙「そんなら此所こゝから遠くもないから御成道おなりみち黒焼屋くろやきや横町よこちやうさ。 ...
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
次が安斎、殿しんがりが僕と、三台の車が続いて、飛ぶように駈ける。掛声をして、提灯ちょうちんを振り廻して、御成道おなりみちを上野へ向けて行く。両側の店は大抵戸を締めている。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
御成道おなりみちの大時計を右に曲って神田明神下の方へ曲る角の、昌平橋しょうへいばしへ出ようという左側に、その頃横浜貿易商で有名な三河屋幸三郎、俗に三幸という人の店であった。
借馬だけに我々も尻馬に乗って出かけたのが神田御成道おなりみち、同秋葉原、浅草の猿若町等々。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
ひろい御成道おなりみちは、白と黒の寂地じゃくちだった。白は月、黒は巨木の影、その中を急いでゆくと、顔にも肩にも、はかまにも、ちらちらと、海月くらげのような光線がたかって、後ろへ飛んで行く。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
懐手ふところでのまま御成道おなりみちへ出た。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
源次に別れて、半七は御成道おなりみちの大通りへ一旦出て行ったが、また何か思いついて、急に引っ返して広徳寺前へ足をむけた。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
力のこもった大股おおまたで、御成道おなりみちを横切ると、松下町から武家屋敷のあいだをぬけ、細くて急な坂を登ってみくみ町まで、ぐんぐんと休みなしに歩き続けた。
此の昌平橋は只今は御成道おなりみちの通りにかゝって居りますが、其の頃は万世橋よろずよばしの西にりましたので、多助は山出しでございますから、とんと勝手が知れません。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
文久慶応の頃は人心のはなはだ殺伐な時で、辻斬つじぎりがしばしば行われた。源三郎は或夜御成道おなりみちで何者にかくびを斬られた。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある夜更けに下谷したや御成道おなりみちを通ると、路ばたの町屋の雨戸の隙間からただならぬ光りが洩れているので、不思議に思って覗いてみると、それは古道具屋で
半七捕物帳:21 蝶合戦 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
筋違すじかい見附より神田川を渡って御成道おなりみちを、上野広小路から黒門くろもんに入り文珠楼もんじゅろう前を右へ、凌雲院りょううんいん前通の松原を過ぎ、大師堂わきなる矢来門の通から龕前堂がんぜんどうに護送せられたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
西岡は下谷したや御徒町おかちまちの親戚をたずねて、その帰り途に何かの買物をするつもりで御成道おなりみちを通りかかると、自分の五、六間さきを歩いている若い娘の姿がふと眼についた。
離魂病 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その帰りみちに下谷の御成道おなりみちへさしかかると、刀屋の横町に七、八人の男が仔細らしく立っていた。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は下谷の御成道おなりみちに店を持っている遠州屋才兵衛という道具屋である。もっぱら茶道具をあきなって、諸屋敷へも出入りしているだけに、人柄も好く、行儀もよかった。
半七捕物帳:61 吉良の脇指 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
下谷御成道おなりみちの道具屋の隠居十右衛門から町内の自身番へとどけ出た。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)