ただ)” の例文
して初めより、如何あらんと疑弐ぎじする日に出でゝ、興趣を感ずべき筈なし、ただに時間と金銭を費すに過ぎず。
研堂釣規 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
ただは坐ッていられぬように、そして柱に懸けた薄暗い姿見にむかい、糢糊ぼんやり写るおのが笑顔をのぞき込んで、あやすような真似をして、片足浮かせて床の上でぐるりと回り
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いやよ、若旦那が、わたしに邪慳にしないようになったら、何時でも云ってあげるわ、ほんとよ、それもただの裏町のおかみさんや娘じゃないことよ、りっぱな地位みぶんのある方よ
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「これはお話したと思いますが、僕も病気になればただで入院が出来るんです」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
軽侮をきた所以ゆえん大本おおもとをばさしおき、ただに末に走りて労するものというべきのみ。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただの女に戻つたのか、厳しく云へば、元もとただの女であつた人が、高等以上の教育を受け、ある人は哲学をやつたが唯いくらか頭がよかつただけ、或る人は女性解放といふ理論の熱病にかかつただけ
大正東京錦絵 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
いやしくただに 文辞におぼれなば
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ふと此方こちらを振向く途端に、文三と顔を相視みあわしておッと云って驚いた、しかし驚きは驚いても、狼狽うろたえはせず、ただ莞爾にっこりしたばかりで、また彼方あちら向いて、そして編物に取掛ッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)