はず)” の例文
新字:
漸く神輿みこしをあげた平次ですが、外の風に當るとはずみがついて、まだ晝をあまり廻らぬうちに、加州樣下屋敷隣の百草園に着きました。
私はもう往來をかろやかな昂奮にはずんで、一種ほこりかな氣持さへ感じながら、美的裝束をして街を濶歩した詩人のことなど思ひ浮べては歩いてゐた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
「そんな筈はないでせう!」おきみは、息をはずまして訊き返した。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
そのはずみに行燈が倒れて消えてしまひましたが、私の聲を聞いて、三五郎さんが飛んで來て、大變な騷ぎになつたのでございますが
平次の聲ははずみました。お勝手の外、日蔭の柔かい土の上に、なゝめにめり込んだ、梯子の足特有の跡が印されてゐるではありませんか。
二十四五のちよいと好い男で、場所柄らしくないにしても、何んかのはずみでニツコリすると、女のやうに優しい表情になります。
無愛想で素つ氣なくて、滅多めつたなことでは人に笑顏も見せないのに、どうかしたはずみで、チラリと、恐ろしく色つぽいところが出るんです。
頭の樣子、髮形ちなど、手さぐりでも見ようと、頭巾に手をかけると、さうはさせまいと身を揉んだはずみに馥郁ふくいくとして處女をとめが匂ふのです。
子刻こゝのつ(十二時)少し過ぎに源次郎が俺の家の格子の外に立つた時、立聞きして居たと言つた癖にひどく息がはずんで居たが——」
木綿の怪し氣な品で、それに何んかのはずみに裾がまくれた時氣が付くと、裏に縞物しまもの双子ふたこきれが當ててあつたやうで御座います
明神下の家へ歸つて來て、ホツとしてゐるところへ、相變らず疾風しつぷうのやうに飛び込んで來たのは、はずみきつた八五郎でした。
「そいつが、何んかのはずみで開かなかつたんだ。東海坊が火に追はれ乍ら、床板ばかり氣にすると思つたが、こいつだよ」
ハツと思つて身體を引くはずみに、滑つて轉げたので反つて助かつたくらゐです。ぢつとしてゐたら間違ひもなく頭から煮え湯を被つたことでせう
お葉は少し息をはずませて居ります。十八といふにしては、やゝ小柄ですが、表情にも仕草にも、子供らしい破綻はたんはなく、いかにもませた感じです。
不思議な水々しさがあり、若さといと、青春と頽廢たいはいとの一種の交錯が、屈從と諦らめとに慣れた態度の下に、何にかのはずみで隱見するのでした。
「馬鹿だなア、娘と聞くと眼の色を變へて乘り出しやがる。——四十八歳のゆき遲れで、人三化七にんさんばけしちだつた日にや、女房の取次があんなにはずむものか」
「ま、待つてくれ。さうはずみが付いちやかなはない——先づ膝つ小僧を隱しなよ。鐵瓶てつびんたぎつてゐるんだぜ、そいつを引つくり返すと穩かぢや濟まない」
どちらも大していける口ではありませんが、話がはずむとツイ醉が發して、女房のお靜に氣をませ乍ら、晩のお馳走をすつかり冷たくしてしまつた頃
んな調子で物を言ふガラツ八ですが、事件の重大さは、そのはずむ息にも、變つた眼の色にも充分讀み取られます。
そのはずみに、長大な身體が小窓のところまで伸びると、隙間漏る月の光が、丁度その顏のところを照らしたのです。
ところで、鑄掛屋の幸吉は、何にかのはずみで鼬小僧の本性を見破つてしまつた。お歌が鼬小僧とわかると、凡夫の悲しさで、一人呑んでは居られない。
不義の快樂くわいらくふけつて居たが、何にかのはずみでそれが主人の小左衞門に嗅ぎつけられ、急に殺す氣になつたのだらう
從妹いとこのお才さんを、——見直すと何んでもない顏だつたんですつて。でも、お仙さんはもののはずみで、首のあたりを少し斬り、手にも少し怪我をしました。
お局のお六の聲が、激情にはずみます。せまい小屋の中は、この女一人を入れただけで、近々と體温を感ずるやう。
平次の言葉が終らぬうちに格子が開いて、お靜が取次に出た樣子、若い女の低いがはずみ切つた聲が聞えます。
「何んかのはずみで、揚羽のお艶が、門口へ顏を出さないものでもあるまいといふ、心細い望みなんださうで」
傷は左脇腹を、袷の上からひどくゑぐられたもので、何んかのはずみで左手を擧げたときやられたらしく、刀の切つ尖は間違ひもなく心の臟を破つてゐさうです。
地藏樣の臺座の下は、土龍もぐらの穴のやうに深々と掘れてあり、この中を搜つたはずみで、臺座のゆるんだ地藏樣が、下に轉がり落ちたと思へないことはありません。
細工は與惣六の時と同じことだ、今度は自害と見せる爲に、石燈籠に細引をかけて、梅の枝に死骸を引上げ、そのはずみで石燈籠は崖の下に轉げ落ちたことだらう。
平次は默つて八五郎を振り返ると、心得た八五郎は獵犬のやうに、はずみきつてどこかへ飛んで行きます。
川を後ろに背負しよつてゐるんだから——その時、あつしは危ないと思つて身をよけると、萬兵衞親爺奴、突いて出たはずみに、もんどり打つて大川へ飛び込みましたよ
なにかのはずみに誰か氣がついてくれるものがあるかも知れないと、萬一のことを頼みにしたのだらう——幸か不幸かその晩萬兵衞は殺されて、櫛はお前の手に入つた
下手人とは拙者もいはない——があの死骸は槍で突いたものだ。何んかのはずみで仰け反るところを、前から一杯に突いたものに間違ひあるまい。あれだけの手際は槍を
樽にもたれて突つ轉がし、どんなはずみか呑口を拔いて、障子を二枚モロに折つたが、文句を言ふ隙もなく、俺は江戸の佐久間町のもので、同じ暖簾のれんの相模屋を名乘る者だ。
この話がはずんで、自分の噂が出ると、娘のゆかりはコソコソと自分の家へ入つてしまひました。
綱を搖ぶつたはずみで、足が宙に浮き、お鈴の至藝でも、どうすることも出來なかつた樣子です。
と、それはどんなはずみであつたか、お關の手か足が觸つたらしく、安定の良い筈の行燈がバタリと倒れて、五六本打ち込んであつた燈心のあかりが、一度にぱつたと消えたのでした。
「お職過ぎますかね、あの後家は? 高慢で無愛想で、ヒヤリとしたところがある癖に、何んかのはずみでニツコリすると、ゾツとするほど色つぽいところがありますよ、あの女は」
などと、佐野松の死骸が、ツイ其處にころがつてゐるのも忘れて、八五郎ははずみます。
こゝだよ御主人、傅次郎は嫌がらせに火でも附けるつもりでこゝへ來て、お篠とつかみ合ひを始め、鼈甲べつかふくしは物のはずみで傅次郎の懷ろに入り、死骸と一緒に向うへ運ばれたのだらう。
「あのお人形のやうなお初が、段々大きくなつて、娘らしく色つぽくなるのを眺めて、宗吉はどんなにはずみきつて居たことでせう。張合ひのある一生奉公だつたに違ひありません。それが」
岸井重三郎も、大方の形勢は解つたらしく、はずみきつて家の中へ飛び込みました。が、それつきり、何んの合圖もなく、表の方に待機して居る、平次の手に飛び込んで來る者もありません。
雪駄直しといふのは、編笠あみがさを冠つた爺々ぢゞむさい男が多いのですが、これは若くて小意氣で、何かのはずみに顏を擧げるのを見ると、編笠の下の顏は二十七八、にがみ走つた良い男でさへあります。
狐につまゝれたやうな心持で、藤澤の宿しゆくに入ると、旅籠だけは思ひ切りはずんで、長尾屋長右衞門の表座敷を望んで通して貰ひましたが、足を洗つて、部屋に通ると、懷中へ手を入れた平次は
八五郎はそんな氣樂なことを言つてはずんだやうに飛び出してしまひました。
掘出しに行つたが、其處には小判はなかつた。主人とお前は喧嘩になつた。どつちも相手が隱したと思ひ込んだのだ。主人はその喧嘩にはずみがついて、石地藏樣を抱いて崖の下に轉がり落ちた
「涎ぢやありませんよ、あんまり話にはずみがついて、こいつは汗なんで」
塀を越すところまでぎつけた時、——こら待てツ——と、背後からお糸坊をぎ取られてしまつたんで、——はずみを喰つてあつしの身體は塀を越して向うの往來に轉げ落ち、肝腎のお糸坊は
あの樣子の良い内儀が顏を出して愛嬌あいけうを振りくから、皆んなはずみが付いて、り合つてやつて來まさア、石川五右衞門が夫婦づれで來たつて、聖天堂の側なんか寄りつけるものぢやありません
が、遠路でも駈けたやうにひどく息をはずませて何んとしたことでせう。