弥立よだ)” の例文
旧字:彌立
強き光に打たれなば、消えもやせんと見えけるが、今泰助等を見たりし時、物をも言わで莞爾にっこりと白歯を見せて笑める様は、身の毛も弥立よだつばかりなり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕は下宿屋や学校の寄宿舎の「まかない」にうえしのいでいるうちに、身の毛の弥立よだつ程厭な菜が出来た。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
あれ程までに足掻あがきつもがきつして穿鑿しても解らなかった所謂いわゆる冷淡中の一ぶつを、今訳もなく造作もなくツイチョット突留めたらしい心持がして、文三覚えず身の毛が弥立よだッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
節々ふし/″\の痛みがおびたゞしく毛穴が弥立よだって、五臓六腑悩乱のうらん致し、ウーンと立上るから女房は驚いて居ると、喜助は苦しみながら台所へ這い出してガーと血の塊を吐いて身を震わして居る。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夜もけて来るにつれ、寝苦しく物に襲われるようで、戸棚をかじる鼠も怖しく、遠い人の叫とも寂しい水車の音ともかぬ冬の夜の声に身の毛が弥立よだちまして、一旦吹消した豆洋燈ランプを点けて
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お俊の説明を聞きて彼はそぞろ身毛みのけ弥立よだつを覚えつつ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
実際、そんな目に逢って、一生忘れられんおもいをした事があるからだよ。いや、考えても身の毛が弥立よだつ。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私に何をはなすのだろう、私に何を話すのだろう。鳥がものをいうと慄然ぞっとして身の毛が弥立よだった。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人は予を凝視みつむるやらむ、一種の電気を身体みうちに感じて一際ひときは毛穴の弥立よだてる時、彼は得もいはれぬ声をて「藪にて見しは此人このひとなり、テモ暖かに寝たる事よ」とつぶやけるが、まざ/\ときこゆるにぞ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)