引詰ひッつ)” の例文
眉のやや濃い、生際はえぎわい、洗い髪を引詰ひッつめた総髪そうがみ銀杏返いちょうがえしに、すっきりと櫛の歯が通って、柳に雨のつやの涼しさ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
侍分さむらいぶんの子で十三四歳ぐらいのが附いて居り、殿様はきっと固くびん引詰ひッつめて、芝居でいたす忠臣蔵の若狭之助わかさのすけのように眼がつるし上っているのは、疳癪持かんしゃくもちというのではありません。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
生際はえぎわが抜け上ってつむりの半ばから引詰ひッつめた、ぼんのくどにて小さなおばこに、かいの形のこうがいさした、片頬かたほせて、片頬かたほふとく、目も鼻も口もあごも、いびつなりゆがんだが、肩も横に、胸も横に
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前垂懸まえだれがけ繻子しゅすの帯、唐桟とうざん半纏はんてんを着た平生ふだん服装なりで、引詰ひッつめた銀杏返いちょうがえし年紀としも老けて見え、頬もせて見えたが、もの淋しそうに入って脇目もらず、あたりの人には目も懸けないで
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何しろその体裁ですから、すなおな髪を引詰ひッつめて櫛巻くしまきでいましたが、生際が薄青いくらい、襟脚が透通って、日南ひなたでは消えそうに、おくれ毛ばかり艶々つやつやとして、涙でしょう、濡れている。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さっ睫毛まつげを濃く俯目ふしめになって、えりのおくれ毛を肱白く掻上げた。——漆にちらめく雪の蒔絵まきえの指さきの沈むまで、黒くふっさりした髪を、耳許みみもと清く引詰ひッつめて櫛巻くしまきに結っていた。年紀としは二十五六である。
夫人利生記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)