引下ひきさが)” の例文
折角花道から、苦労しながら仁木にき弾正だんじょうがせり上って見ても、毎日毎日大根引下ひきさがれ、と叫ばれて見ては、あまりいい気はしないだろう。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
老教師はその紙包を戴いて何麽どんな事があつても、馬左也氏の名前だけは忘れまいと胡麻白ごましろの頭を幾度か下げて引下ひきさがつた。
彫物の名手六郷左京は、自分の御長屋に引下ひきさがって待っていると、間もなく木曾から取寄せたという、檜の良材を三本、人足が十人あまりで担ぎ込みました。
「はい。」とつて引下ひきさがつたがわからない。女房かみさんに、「一寸ちよつと鍋下なべしたもつい、とつたがなんだらう。」と。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
五八「おらア人殺し/\と云うから、おっかなくってたまりやしねえから、此処こゝ引下ひきさがって居りやすのだ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
良人やどわたしとしの十いくつも違ふのですもの、永く役に立つやうにして置かねばと何でも無しの挨拶あいさつに、流石さすがおせつかいの老婢ばあやもそれはそれはで引下ひきさがつたさうだ此処迄こゝまで来ればうらみは無い。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
平岡氏はうといふ見当もつけないで、大ざつぱに言つて退けた。骨董屋はそれを聞くと、急に冷たい顔をして、煙草入たばこいれを腰にさして、てんでに引下ひきさがつて往つた。