いぢく)” の例文
其麽時は、孝子は用もない帳簿などをいぢくつて、人後ひとあとまでのこつた。月給を貰つた爲めに怡々いそ/\して早く歸るなどと、思はれたくなかつたのだ。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
雖然けれども風早學士は、カラ平氣で、まるで子供がまゝ事でもするやうに、臟器をいぢくツたり摘出したりして、そして更に其の臟器を解剖して見せる。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「いや、真平まつぴらだ」と云つてあに苦笑にがわらひをした。さうして大きなはらにぶらがつてゐる金鎖きんぐさりゆびさきいぢくつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
職員室の窓がいて、細い釣竿が一間許り外に出てゐる。宿直の森川は、シヤツ一枚になつて、一生懸命釣道具をいぢくつてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
默つて顏をみつめてゐると、『これ上げようかな?』と言つて、花簪をいぢくつたが、『お前は男だから。』とうしろに隱すふりをするなり、涙に濡れた顏に美しく笑つて
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は例の如く茶の間に行つて同宿の人と一緒に飯を食つてゐると、風邪の気味だといつて学校を休んで、咽喉に真綿を捲いてゐる民子が窓側で幅の広い橄欖色オリイヴいろ飾紐リボンいぢくつてゐる。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
馬鹿に喫んで了つたと思ふと、一本出して惜しさうに左の指でいぢくり乍ら、急いでせんののを、然も吸口まで焼ける程吸つて了つた。で、「敷島」に火をつけたが、それでも左程美味うまくない。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
孝子は気毒きのどくさに見ぬ振をしながらも、健のその態度やうすをそれとなく見てゐた。そして訳もなく胸が迫つて、泣きたくなることがあつた。其麽そんな時は、孝子は用もない帳簿などをいぢくつて、人後ひとあとまで残つた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宿直の森川は、シャツ一枚になつて、一生懸命釣道具をいぢくつてゐた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)