店舗てんぽ)” の例文
旧字:店舖
しかし焼跡が一つ一つ消えていって、木の香も高い店舗てんぽがたつとさすがににぎやかさを加えて、だれもみんなうれしくなった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
昔は寒稽古と云って寒中夜のしらしら明けに風に吹きさらされながら稽古をするという習慣があったけれども道修町は薬屋の多い区域くいきであって堅儀かたぎ店舗てんぽのき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
でも、なお買物にかぬ顔つきが、両側の明るい店舗てんぽを軒ごとに眺めつ迷いつしているのは、いかに物欲の強い年ごろの女とはいえ、浅ましい沙汰の挙動です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つたなき器具やあらき素材。売らるる場所とても狭き店舗てんぽ、または路上のむしろ。用いらるる個所も散り荒さるる室々。だが摂理は不思議である。これらのことが美しさを器のために保障する。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
それがまあ悪縁のはじまりでございまして、二つの屋台をくっつけてわばまあ店舗てんぽの拡張という事になり、私は大工さんの仕事やら、店の品の仕入れやら、毎日へとへとになるまで働き
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
前は、一本道路に面した店舗てんぽになっていて裏庭は湖に面していた。
私の生まれた家 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
両側には店舗てんぽが軒をつらねていてにぎやかな通りである。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
銀座の表通りの復興店舗てんぽもすっかり出来上り、りっぱになったので、昔のように表通りのどこからでも、源一の店が見えるというわけにはいかなかった。
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
盧俊儀のかつての店舗てんぽと住居の一かくは、あれよというまもなくぶちこわされ、番頭の李固りこと、の妻の賈氏こしは、逃げも隠れもできないうちに、どこへとも拉致らちされて行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けだし佐助がしのび出た物干台というのは店舗てんぽの屋上にあったのであろうから真下に寝ている店員共よりも中前栽なかせんざいへだてた奥の者が渡り廊下ろうかの雨戸を開けた時にまずその音を聞きつけたのである。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
タクマ少年が、僕の袖をひいて立ちどまらせたのは、上品な店舗てんぽの前だった。白と緑の人造大理石じんぞうだいりせきりめぐらし、黄金色こがねいろまばゆきパイプを窓わくや手すりに使ってあった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが彼らの叔父にあたる孔賓こうひんというのが、青州城内で店舗てんぽを持っていたので、るいはこの叔父に及び、孔賓は以来、官の手に捕われて、奉行所の一牢にぶち込まれている。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
店舗てんぽを持っている主人も若いし、騎馬で歩いている役人も、編笠を抑えて大股に過ぐる侍も、労働者も、工匠こうしょうも、物売りも、歩卒も部将も、すべてが若かった。若い者の天地だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
整然たる区画整理の下に大小の店舗てんぽは軒をならべ、信長の経済政策が功を奏して、旅舎や駅亭の客はあふれ、湖畔には泊船の帆ばしらが林立し、侍小路の住宅地域も諸大将たちの宏壮こうそうな邸も
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)