幼稚ようち)” の例文
それに対してO市の町の灯の列はどす赤く、その腰を屏風びょうぶのように背後の南へ拡がるじぐざぐの屏嶺へいれい墨色すみいろ幼稚ようちしわを険立たしている。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その頃は私が幼稚ようちな上に、世間がまだそれほど進んでいなかったので、私のやり方は実際やむをえなかったのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此時分このじぶん發掘法はつくつはふといふのは、幼稚ようちなもので、幻花はハンマーでこつこつつて、布呂敷ふろしき貝殼かひがらしやくくらゐ。
板も手ごしらえであろう、字ももちろん自分で書いたものらしい、しろうとくさい幼稚ようちな字だ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
日本語より英語の方が幼稚ようちではあるが、使う場合が多かったものですからちょっと出やすい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
うたちゃんは、三人兄弟の末で、来年からは幼稚ようち園へ行こうというのですが、早くから、自分ではおねえちゃん気どりで「えいちゃん」「えいちゃん」と、自分をよんでいます。
「の」の字の世界 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
ゆるやかな単純たんじゅん幼稚ようちな歌で、重々しいさびしげな、そして少し単調たんちょうな足どりで、決していそがずに進んでゆく——時々長い間やすんで——それからまた行方ゆくえもかまわず進み
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
これはかつて竹童が、人穴城ひとあなじょうへ使者としていったとき、呂宋兵衛るそんべえの前でやって見せたことのある初歩の幻術げんじゅつ、きわめて幼稚ようちなものであるが、蛾次郎ははじめてなのでおどろいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今の子供たちにくらべると、これがほんとうの「幼稚ようち」と云うのかも知れません。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
じつにこの地震計ぢしんけい發明はつめいは、それまできはめて幼稚ようちであつた地震學ぢしんがく本當ほんとう學問がくもん進歩しんぽしたもとゐであるので、たんこの一點いつてんからみても、地震學ぢしんがく日本につぽんおいひらけたといつても差支さしつかへないくらゐである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
幼稚ようちなアンビシューに支配されないで。でなければ、小説なんか書きなさいますなよ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ずいぶんいやしい職業のようにも思われる。しかし人が平気でやることを自分にばかりできないわけはない。いやだと思うのは自分の幼稚ようちなのだ。どうしたって自分は医者にならねばならぬのだ。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)