幼少ちいさ)” の例文
「これ、温順おとなしく寝てるものを、そうッとして置くが可い」とお種は壁に寄せて寝かしてある一番幼少ちいさい銀造の顔をのぞきに行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また頼三樹さんや池内大角(吉田松陰らと倶に斬らる)などゝも親密で私が幼少ちいさい時分には能う往来きして居ました。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
たとえば……実は私は貴方あなたの亡くなられたお母様を存じている者ですが、まだ貴方がお幼少ちいさいうちに、貴方の事に就いて極く秘密のお頼みを受けている事がありました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その子は幼少ちいさいうちから手塩てしおにかけたので、わたしを何処までも母だと思っているのです。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
路傍にたたずんで見ているうちに、武蔵は、自分もその粘土つちねてみたくなった。彼には、何かそういうことの好きな性質が幼少ちいさい時からあった。——茶碗くらい出来るような気がする。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが自分の十か十一のとしの時であったと書いてよこした。考えて見ると自分は幼少ちいさい時から苦労性であったと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
俺はドウしたらいいんだろう……クレハの奴は幼少ちいさい時から無残絵描きの父親の遺伝を受けていると見えてトテモ片意地な、風変りな性格の奴であったが、その上にこの頃
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あなたに聞ひて頂くならモ少し幼少ちいさい時分から稽古して置けば宜かつたと大笑でした。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
幼少ちいさかったわたしは、美しかったお嫁さんのお八重さんの方を見ないでしまって、憎らしいおばあさんの方を見たことがあるが、そのおしゅうとさんの方も顔にハッキリした記憶が残らないで
彼は阿武隈川あぶくまがわほとりで送った自分の幼少ちいさい時を考えた。学生時代を考えた。岩沼にある自分の生れた旧い家を考えた。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私は幼少ちいさい時からさみしいところに育ちやしたが、この山へ来て慣れるまでには、真実ほんとに寂しい思をいたしやした」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「繁ちゃん、お前は一ちゃんや次郎ちゃんと喧嘩けんかするんじゃないよ——次郎ちゃんはまだ幼少ちいさいんだからね。いいかい。伯母おばさんの言うこともよく聞くんだぜ」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まだ幼少ちいさな泉太は着物を着更きかえさせられて、それらの人達の間を嬉しそうに歩き廻っている。皆を款待もてなそうとする母親に抱かれて、乳房を吸っている繁もそこに居る。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほんに、この児は壮健じょうぶそうな顔をしてる。眼のクリクリしたところなぞは、三吉の幼少ちいさい時に彷彿そっくりだぞや……どれ、皆な好い児だで、伯母さんが御土産おみやを出さずか」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「弘の幼少ちいさい時分にはよくああして兄さんにおぶさって歩いた。一度なんか深川の方までも——」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お父さま——お前さまの心持は、この俺にはよく解るぞなし。俺もお前さまの娘だ。お前さまに幼少ちいさな時分から教えられたことを忘れないばかりに——俺もこんなところへ来た」
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土地から出て植物学を専攻した日下部は亡くなった生徒の幼少ちいさい時のことなどを知っていて、十歳の頃から病身な母親の世話をして、朝は自分で飯をき母の髪まで結って置いて
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母はまた、年をとるほど好ききらいも激しかった。そのためにお三輪の旦那とは合わないで、幼少ちいさな時分の新七をひどく贔屓ひいきにした。母はどれ程あの児を可愛がったものとも知れなかった。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんですかこう三人別のものがそこへ出て来るような気がします——極く幼少ちいさい時分と、学校に居た娘の頃と、それからお嫁に来てからと——三つずつ別々の自分じゃないかと思うような
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「私の兄の幼少ちいさい時が丁度これだったそうですからねえ」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)