かわ)” の例文
皺だらけな顏が白くなつた上に大粒おほつぶな汗をにじませながら、脣のかわいた、齒のまばらな口をあへぐやうに大きく開けて居ります。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「でもないのさ——かく、お茶はおいしいね。今夜は、つまらない相手に強いられてばかりいたので、やけにかわいてならないよ。もう一杯——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「竜吉が死んだ騒ぎの後、いろいろの人が来るので、黒いしまの袷を脱いで、また青い小紋と替えました、——その時はもう袖口の濡れもかわいたので」
なぜならばその人々は皆、白いかみしもを着、白い緒の編笠をかぶり、手に数珠じゅずを持って、まだ野辺の送りをすまして来た涙がかわかないでいる人たちであったから。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
緑の野には陽炎がもえて、クーライエンが恐らく朝空に朗に響いているのだろう——食事のあと杖をふりながら丘の上に立ったのは、未だ朝露のかわかぬころであった。
血で、指が、柄からすべりかけた。膝頭が曲らないように疲れて来た。呼吸が、肩で喘がなくてはならなくなってきた。舌はかわき上って、砥石のように、ざらざらしてきた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ここを以ちてその兄八年の間にかわき萎え病み枯れき。かれその兄患へ泣きて、その御祖に請ひしかば、すなはちその詛戸とこひど一六を返さしめき。ここにその身本の如くに安平やすらぎき。
半ば以上もかわいて、広くなった河原を、細く二た条に分れた水が、うねうねと蛇行しているのだが、いまはそれも冰っており、星明りの下でかすかに白く、いかにも冷たげに見えていた。
橋の下 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
まるッきり見込がないとのことだ、物干棹には浴衣ゆかたなどが、かわかしてある、梓川を隔てて、対岸の霞沢岳の頂は、坊主頭や半禿げの頭を、いくつか振り立てて、白雲母花崗岩の大露出が
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
百合枝は隅の方に小さく坐って、かわいたくちびるでいった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
皺だらけな顔が白くなつた上に大粒おほつぶな汗をにじませながら、唇のかわいた、歯のまばらな口をあへぐやうに大きく開けて居ります。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
長次郎は店先に立竦たちすくんだまゝ眼を見張りました。平次が豫想した以上の衝動を與えたらしく、頬が痙攣けいれんして、唇は僅かに動きますが、舌がかわく樣子で、暫らくは言葉も出て來ません。
返り血さえ浴びたまままだかわかず、血しおの匂いも移っていよう、殺人の美女を行灯の灯かげに近く眺めながら、髪の艶やかさ、頬の白さ、まつ毛の長さ、居くずれたすがたのしおらしさに
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
眼の色も、かわいて、悪くなっていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
なめてもなめても脣がかわいた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)