巫女いちこ)” の例文
その頃は女房のお楽も心がくじけ、その上巫女いちこの口寄せで、お染の生霊いきりょうの祟りで、お七が死んだと聞いては身も世もございません。
「ざまあ見ろ、巫女いちこ宰取さいとりきた兄哥あにいの魂が分るかい。へッ、」と肩をしゃくりながら、ぶらりと見物のむれを離れた。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「聞かないでも分かるのか。まるで巫女いちこだね。——御前がそう頬杖ほおづえを突いて針箱へたれているところは天下の絶景だよ。妹ながら天晴あっぱれな姿勢だハハハハ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
死骸は一通り検視を受けた上に、ともかく、間近の孫次郎の宿の一室へ引取られて、そこへ静かに横にして置きますと、ちょうど来合わせた巫女いちこがあります。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人間のお糸さんは何処へか行って了って、体に俗曲の精霊が宿っている、そうしてお糸さんの美音をとおして直接に人間と交渉している。お糸さんは今俗曲の巫女いちこである、薩満シャマンである。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「占いでわからなければ、今度は巫女いちこか、お先狐さきぎつねにでも見てもらうんだな。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「それだってことよ彦! あの界隈に巫女いちこあいねえか。」
巫女いちこいいぐさではありませんが、(からのかがみ)と云った方が、真個ほんとうは、ここに配合うつりいのですが、探した処でがないでは、それだと顔がうつりません。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
只今の巫女いちこ出鱈目でたらめがこの上もなく気になって、席に堪えられなくなったものと見える。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし幸か不幸かいまだ全く文明化せられざる今日においてはかかる裏長屋の路地内ろじうちには時として巫女いちこ梓弓あずさゆみの歌も聞かれる。清元きよもとも聞かれる。盂蘭盆うらぼん燈籠とうろう果敢はかない迎火むかいびけむりも見られる。
「——おらが口で、あらためていうではねえがなす、内のばばあは、へい一通りならねえ巫女いちこでがすで。」……
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古女房の老巫女いちこに、しおしおと、青くなって次第を話して、……その筋へなのって出るのに、すぐにはりへ掛けたそうにふんどしをしめなおすと、あずさの弓を看板に掛けて家業にはしないで
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何だか、薄気味の悪いような、横柄で、傲慢ごうまんで、人をめて、一切心得た様子をする、檀那寺だんなでらの坊主、巫女いちこなどと同じ様子で、頼む人から一目置かれた、また本人二目も三目も置かせる気。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お覚えのめでたさ、その御機嫌の段いうまでもない——帰途に、身が領分に口寄くちよせ巫女いちこがあると聞く、いまだ試みた事がない。それへ案内あないをせよ。太守は人麿の声を聞こうとしたのである。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)