しば)” の例文
「まあ、さやうでございますか。」とおくみはたゞつゝましやかにさう言つて、しばらく椅子のはしにかけてお給仕についてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
何事も解せぬ風情ふぜいに、驚ろきのまゆをわが額の上にあつめたるアーサーを、わが夫と悟れる時のギニヴィアの眼には、アーサーはしばらく前のアーサーにあらず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
探検一行二十七名上越国界を定むとしよす、しばらく休憩きうけいをなして或は測量そくりやうし或は地図ちづゑがき、各幽微いうび闡明せんめいにす、且つ風光の壮絶さうぜつなるに眩惑げんわくせられ、左右顧盻こめんるにしのびず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
ヂドは色をうしなひて凝立することしばらくなりき。そのさまニオベ(子を射殺されて石に化した女神)の如し。にはかにして渾身の血は湧き立てり。これ最早ヂドならず、戀人なるヂド、棄婦きふなるヂドならず。
あら心地好こゝちよ光景ありさまやと、しば
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
併しどういふ訳でか、奥さんは、どうかすると、一人で人のゐないところに彳んで、しばらくしく/\泣き入つてゐられるやうな事を、よく婆やは見たさうであつた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
すると小さいのが姉のした通り同分量の砂糖を同方法で自分の皿の上にあけた。しばらく両人りょうにんにらみ合っていたが、大きいのがまた匙をとって一杯をわが皿の上に加えた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しばらく自分の挫けた氣持を見探りつゝ、蒲團の襟を脱ぎ返さうとすると、さつきからじつと枕元に坐つてゐたらしく、直ぐにそれに手を貸してくれるのを、やつぱり主婦かみさんだと思つて
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
冷吉は看護婦が來るまでしばらくでもこゝに横になつてゐようかと思ふのを、怺へ/\するやうにして、各の一秒がじれつたく底淋しく待ち飽ぐまれた。考へて見ると拙らない目に會つたものである。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)