少許すこしばかり)” の例文
南の方の一段低い所には少許すこしばかりの残雪が萋々せいせいたる緑蕪りょくぶの間に一脈の冬を蔵し、雪消の跡には白山小桜の紅葩こうはがあたりに華やかな色を添えている。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
私は、彼等の眼が伏し眼になつて、血のが上つて來ることとばかり思つてゐた。しかし、彼等が少許すこしばかりも動かされた樣子が無いのを見た時、私は嬉しかつた。
硫黄の少許すこしばかりを與へ、清冽の水を好む山葵わさびの如き植物に、清冽の水を與へるのは、即ち茄子や山葵を壯美ならしめて、其の本性を遂げしむる所以なのであつて、茄子は茄子の美味の氣
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そして、俊吉が十五の春、土地の高等小學校を卒業した頃は、山も畑も他人の所有ものに移つて、少許すこしばかりの田と家屋敷が殘つて居た丈けであつた。其年の秋、年上な一友と共に東京に夜逃をした。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
我口に入りしは少許すこしばかりなるに、その酒は火の如くほのほの如く、脈々をめぐりぬ。貴婦人はなほ我傍を離れず、笑を含みて立ち給へり。士官我にこの御方の上を歌へと勸めしに、我又喜んで歌ひぬ。
少許すこしばかりすると行手の方向に一つ、続いて又一つ現れた。夫が焚火の光であることが分るだけに近い。愈々いよいよ人の住む山に近付いたなと思うと妙に心強くなる。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そして、俊吉が十五の春、土地の高等小学校を卒業した頃は、山も畑も他人の所有に移つて、少許すこしばかりの田と家屋敷が残つて居た丈けであつた。其年の秋、年上な一友と共に東京へ夜逃をした。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
殊にお辰は叔父おじさえなくば大尽だいじんにも望まれて有福ゆうふくに世を送るべし、人は人、我は我の思わくありと決定けつじょうし、置手紙にお辰少許すこしばかりの恩をかせ御身おんみめとらんなどするいやしき心は露持たぬ由をしたた
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
更に登ること少許すこしばかりにして、路傍に小山の如き巨岩がそばだち、右に大残雪があって雪解の水が滾滾こんこんと流れている、それを見ると誰しも一口飲まずには通れない。
白馬岳 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
少許すこしばかり開いた唇からは、齒のない口が底知れぬ洞穴の樣に見える。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
対岸の急斜面の下に少許すこしばかりの平地があって、林莽の茂生したのが目に入る。其処そこを目懸けて川を右岸に渡ると、丁度其茂みの中央と思うあたりに蹈まれた路の跡がある。
初狩駅で下車して荷拵にごしらえが済むとすぐに歩き出す、浅井君のキャビネ版の写真機が荷物になるので皆で分担することにした。その他は二度分の食糧と少許すこしばかりの防寒具に過ぎない。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
この峰頂から尾根は極めて緩い下りを続けて、少許すこしばかりの残雪ある鞍部めいた所に達すると、復徐またおもむろに上りとなって、間もなく日光黄菅の咲き乱れた広やかな草地を展開する。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
頂上は鍋を伏せたように丸く盛り上って、中央の四坪許りの地が少許すこしばかりの岩片と白い砂利を敷きならしてある外は、短く刈り込んだ芝生のような草原で、東は直ぐ一面の雪田に取り巻かれている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
少許すこしばかりの準備と昼食の後十一時三十分、出立。暑さ甚し。途中屡々しばしば休憩して、午後二時三十分、前平沢。此処ここにて人夫一人を雇いつ米をあがなわんとして空しく二時間半を費やし、五時、漸く出発。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これより四、五町にして路尽き、河床を辿る。十一時、左岸に少許すこしばかりの平地を見る。昼食。午後十二時十分出発。十二時四十五分、右岸に頗る多量の残雪あり。一時、猫又谷釜谷追分。釜谷に入る。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
この山の頂は頗る狭いが、岩石が露出してやや高山相を呈している。そして頂上直下より子酉ねとり川の東沢へなだれ落ちた崩壊面は、極めて少許すこしばかりの古生層の岩片の外は、花崗岩より成れることを示している。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)