少焉しばらく)” の例文
少焉しばらくして父は辞して帰つた。間もなくしもべが煎薬を茶碗に注いで持つて来た。此時良三は苦悶に堪へぬので、危険を冒して下剤を服せむことを欲した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼は食事ををはりて湯浴ゆあみし、少焉しばらくありて九時を聞きけれど、かの客はいまだ帰らず。寝床にりて、程無く十時の鳴りけるにも、水声むなしく楼をめぐりて、松の嵐の枕上ちんじように落つる有るのみなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少焉しばらくあって、一しきり藻掻もがいて、体の下になった右手をやッとはずして、両のかいなで体を支えながら起上ろうとしてみたが、何がさてきりで揉むような痛みが膝から胸、かしらへと貫くように衝上つきあげて来て
晩餐をわりてみんく、少焉しばらくありて眼覚めさむれば何ぞはからん、全身あめうるをうて水中におぼれしが如し、しうすでに早くむ、皆わらつて曰く君の熟睡うらやむにへたりと、之より雨益はなはだしく炉辺ろへんながれて河をなし
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
すると抽斎先生は、大分諸君は倦んで来たやうだ、少し休んで茶でもむが好いと云つて、茶菓を供した。少焉しばらくして、さあ、睡魔が降伏したら、もう少し遣らうと云つて講説した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
少焉しばらくして猫は一尾の比目魚かれひくはへて来て、蘭軒の臥所ふしどかたはらに置いた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)