小片こぎれ)” の例文
そのつぎは、文庫張ぶんこばりの一家族で、割り竹で編んだ箱へ紙を貼り、漆を塗って、手文庫、おんなの小片こぎれ入れなどをこしらえるのが稼業。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
縮緬ちりめん小片こぎれで叔母が好奇ものずきに拵えた、蕃椒とうがらしほどの大きさの比翼の枕などがあった。それを見ても叔母の手頭てさきの器用なことが解った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
煙草入たばこいれだの、唐桟とうざん小片こぎれだの、古代更紗こだいさらさだの、そんなものを器用にきちんと並べ立てて見世を張る袋物屋ふくろものやへでも行って、わざわざ注文しなければ
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女の抜目のない利用法にかかつたら、どんな男でも羅紗らしや小片こぎれと同じやうに、ただの一つの材料に過ぎない。
がちゃんと、たいへんな音がして、コーヒー茶碗の皿がたくさんの小片こぎれに分れて、あたりに飛びちった。茶碗の方は、小憎こにくらしくも、把手とってが折れたばかりだった。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それでも時々は良心にとがめられて勉強する、その法は英語を一語々々覚えるのが第一の必要だといふので、洋紙の小片こぎれに一つ宛英語を書いてそれを繰り返し繰り返し見ては暗記するまでやる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
差出さしでの磯の亀甲橋きっこうばしも水に流されて、橋杭はしぐいだけが、まだ水にかれているところへ来て、女はふと何物をか認めたらしく、あたりにあった竹の小片こぎれを取り上げて、岸の水をこちらへと掻き寄せました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
とがった三角がたの軍帽をかぶり、背嚢はいのう襷掛たすきがけに負い、筒袖つつそでを身につけ、脚絆草鞋きゃはんわらじばきで、左の肩の上のにしき小片こぎれに官軍のしるしを見せたところは、実地を踏んで来た人の身軽ないでたちである。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女の抜目のない利用法にかかったら、どんな男でも羅紗の小片こぎれと同じように、ただ一つの材料に過ぎない。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
丹念にり分けて、しまったり出したりしているそばに座り込んで、これまでに見たこともない小片こぎれや袋物、古い押し絵、珊瑚球さんごじゅのような物を、不思議そうに選り出してはいじっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その次には軒の下に、更紗さらさ小片こぎれを五つ六つ四角なわくの中に並べたのがけてあった。それから香水のびんが見えた。すると露次は真黒な土蔵の壁で行き留った。女は二尺ほど前にいた。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)