対坐たいざ)” の例文
旧字:對坐
その骨格のたくましいところは先代吉左衛門に似て、ひざの上に置いた手なぞの大きいことは、対坐たいざするたびに勝重の心を打つ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
津田は心の中で、この叔父と妹と対坐たいざした時の様子を想像した。ことによるとそこでまた一波瀾ひとはらん起したのではあるまいかといううたがいさえ出た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際に使うのはまれに来客のあった場合、それもよくよく寒い日に限り、平素は火鉢ひばちだけだったので、幸子は正月年始に行って姉と対坐たいざしていると
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すぐ目の前で悟浄があわてて立上がり、礼拝らいはいをするのを、見るでもなく見ぬでもなく、ただ二、三度まばたきをした。しばらく無言の対坐たいざを続けたのち悟浄は恐る恐る口をきいた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その部屋へやから、なかば身をさしだして、音のした池のをながめたのは、やかた菊亭右大臣晴季公きくていうだいじんはるすえこうで、そのまえには、さっきのそうのひとりが対坐たいざし、ふたりの僧は、すえのほうにひかえているらしかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらく半蔵はその日の来意を告げることを躊躇ちゅうちょした。というのは、対坐たいざする和尚の沈着な様子が容易にそれを切り出させないからであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
健三は時々うちへ話しに来る青年と対坐たいざして、晴々しい彼らの様子と自分の内面生活とを対照し始めるようになった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
よそおってもぎ付かれずにはいないものだが佐助が同門の後輩こうはいとなってからは以前のように夜更けるまで対坐たいざする機会もなく時折兄弟子の格式をもっておさらいを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
で——いまもその市松とふたりきりで対坐たいざしていたので
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は友人と対坐たいざでもするように、香蔵の日記を繰り返してそこにいない友人の前へ自分を持って行って見た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お延とお秀が対坐たいざして戦っている間に、病院では病院なりに、また独立した予定の事件が進行した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云って冷麦のどんぶりが運び込まれたあとで、幸子だけが打ち合せのために母屋の方の一と間へ呼ばれて、未亡人と対坐たいざしたが、正直のところ、彼女は五分か十分も話を聞いているうちに
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
時間の価値というものを少しも認めないこの姉と対坐たいざして、何時いつまでも、べんべんと喋舌しゃべっているのは、彼にとって多少の苦痛に違なかった。彼は好加減いいかげんに帰ろうとした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
相も変らず飾ってあるのをながめながら姉と対坐たいざしたことであったが、今年六つになる梅子を除いて、上の子供たちは皆学校へ行く年頃になっているので、家の中は昔のように騒がしくはなかった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
姉はまた非常に饒舌しゃべる事のすきな女であった。そうしてその喋舌り方に少しも品位というものがなかった。彼女と対坐たいざする健三はきっと苦い顔をして黙らなければならなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黙然もくねんとして、対坐たいざしていた圭さんと碌さんは顔を見合わして、にやりと笑った。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
家庭の一員として暮した事のない私のことだから、深い消息は無論わからなかったけれども、座敷で私と対坐たいざしている時、先生は何かのついでに、下女げじょを呼ばないで、奥さんを呼ぶ事があった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)