ゆたか)” の例文
千の苦艱くげんもとよりしたるを、なかなかかかるゆたかなる信用と、かかるあたたか憐愍れんみんとをかうむらんは、羝羊ていようを得んとよりも彼は望まざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
貧富同じく其製をゆたかにすると云い、富める者は産業を傾け、貧者は家資を失う、と既に其弊のあらわるるを云って居る。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
唯だその障碍をのぞき、学者をして学問の実体を講ずるの力をゆたかならしむるものに至らば、在野の人といえどたその責を分たざるを得ず(謹聴、喝采)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
自分としても相当苦労をした作品であるが、尚、これを書き上げるについて、柴田ゆたか氏の激励げきれいと、友人千田実画伯せんだみのるがはくこと西山せん君の卓越たくえつした科学小説挿絵さしえ
『地球盗難』の作者の言葉 (新字新仮名) / 海野十三(著)
吾妻下駄あずまげたと駒下駄の音が調子をそろえて生温なまぬるく宵を刻んでゆたかなるなかに、話し声は聞える。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
片隅かたすみ外套がいとうを脱捨つれば、彼は黒綾くろあやのモオニングのあたらしからぬに、濃納戸地こいなんどじ黒縞くろじま穿袴ズボンゆたかなるを着けて、きよらならぬ護謨ゴムのカラ、カフ、鼠色ねずみいろ紋繻子もんじゆす頸飾えりかざりしたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼はさも思ひのままに説完ときおほせたる面色おももちして、ゆたかひげでてゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)