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寄来
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よりく
忽ち
一閃の光ありて焼跡を貫く道の
畔を照しけるが、その
燈の
此方に向ひて
近くは、巡査の
見尤めて
寄来るなり。
お村は
昨夜の夜半より、藪の
真中に
打込まれ、身動きだにもならざるに、酒の
香を
慕ひて
寄来る
蚊の群は謂ふも
更なり、何十年を経たりけむ、
天日を
蔽隠して昼
猶闇き大藪なれば
帽子も
鉄鞭も、
懐にせしブックも、
薩摩下駄の
隻も投散されたる中に、
酔客は半ば身を
擡げて血を流せる右の
高頬を平手に
掩ひつつ
寄来る婦人を
打見遣りつ。彼はその前に
先づ
懦れず会釈して
例の物見高き町中なりければ、この
忙き
際をも忘れて、
寄来る
人数は
蟻の甘きを探りたるやうに、一面には遭難者の土に
踞へる
周辺を擁し、一面には婦人の左右に
傍ひて、目に物見んと
揉立てたり。