宝丹ほうたん)” の例文
旧字:寶丹
その痛みよりも今き出しそうになって居る奴が非常に苦しくって何か胸に詰って来たようになったからじきに宝丹ほうたんを取り出して飲みました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こはいかに宝丹ほうたんを入れ置きぬと覚えしにと当惑のさまを、貴嬢は見たまいて、いなさまでに候わずとしいて取り繕わんとなしたもうがおかしく
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
宝丹ほうたんかどを曲るとまた一人芸者が来た。これはせいのすらりとした撫肩なでがた恰好かっこうよく出来上った女で、着ている薄紫の衣服きものも素直に着こなされて上品に見えた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
折々恐しい音してねずみの走る天井からホヤの曇った六分心ろくぶしんのランプがところどころ宝丹ほうたんの広告や『都新聞みやこしんぶん』の新年附録の美人画なぞでやぶをかくしたふすまを始め、飴色あめいろに古びた箪笥たんす
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一時ひとときばかりにして人より宝丹ほうたんもらい受けて心地ようやくたしかになりぬ。おそろしくして駄洒落だじゃれもなく七戸しちのへ腰折こしおれてやどりけるに、行燈あんどうの油は山中なるに魚油にやあらむくさかりける。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
御新造ごしんぞは何しろ子供のように、可愛がっていらしった犬ですから、わざわざ牛乳を取ってやったり、宝丹ほうたんを口へふくませてやったり、随分大事になさいました。それに不思議はないんです。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「裸にて生まれてきたになに不足」の一句によって、安田宝丹ほうたん翁は、更生したといわれています。事業に失敗したあげ句の果て、もう死のうとまで決心した彼は、この一句によって復活しました。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
宝丹ほうたんはありますかい。」
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうもしようがないな。腸胃ちょういが悪いんだろう、宝丹ほうたんでも水にいて飲ましてやれ」
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゼムをんだり、宝丹ほうたんを呑んだり、通じ薬をやったり、内地から持って来た散薬を用いたりする。毎日飯を食って呑気のんきに出歩いているようなものの、内心ではこりゃたまらないと思うくらいであった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)