安直あんちょく)” の例文
落雲館の教師ではないが、やはり教師に相違ない。からかうには至極しごく適当で、至極安直あんちょくで、至極無事な男である。落雲館の生徒は少年である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
安直あんちょくでスープに適当な場所というと牛のすねですが、やっぱりブリスケと同じように一斤十八銭位ですから脛の肉を骨付のまま二斤買います。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
この安直あんちょくなやくざは、親分の平次を言いくるめてぬくぬくと網の目をくぐって逃げ出しそうでならなかったのです。
東京における戦後の寿司屋すしや繁昌はんじょうたいしたもので、今ではひと頃の十倍もあるだろう。さかなめし安直あんちょくにいっしょに食べられるところが時代の人気に投じたものだろう。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「極く安直あんちょくなおとむらいでしょうな」と、同じ男が云った。「何しろ会葬者があると云うことは全然まるで聞かないからね。どうです、我々で一団体つくって義勇兵になっては?」
本来ならこの散策子さんさくしが、そのぶらぶら歩行あるきの手すさびに、近頃買求かいもとめた安直あんちょくステッキを、真直まっすぐみちに立てて、鎌倉かまくらの方へ倒れたらじいを呼ぼう、逗子ずしの方へ寝たら黙って置こう
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「オッと! そう安直あんちょくに種をわってどうなるものか。貴公から先にはきだすがよい!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こんな服装では上れんから、どこか安直あんちょくなところでと、彦太郎が恐縮するのを、なに、かまうことはない、上りたまえ、と先に立ってどんどん階段を上った。彦太郎も草履ぞうりをぬぎ、ついて上った。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
十七字が容易に出来ると云う意味は安直あんちょくに詩人になれると云う意味であって、詩人になると云うのは一種のさとりであるから軽便だと云って侮蔑ぶべつする必要はない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
千成はデパートに真似まねて寿司食堂を造り、数多くのテーブルを用意し、一人前何ほどと定価のつく皿盛さらもり寿司を売り出した。この手は安直あんちょく本位なので、世間にパッとひろがってしまった。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「夢窓国師も家根やねになって明治まで生きていれば結構だ。安直あんちょくな銅像よりよっぽどいいね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)