媚薬びやく)” の例文
旧字:媚藥
たった一人、ウイスキーに酔った一人の青年が、言葉の響を娘にこすりつけるようにして、南洋特産とうわさのある媚薬びやくの話をしかけた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これが不審ふしんといえば、不審だったが、ナブ・アヘ・エリバは、それも文字の霊の媚薬びやくのごとき奸猾かんかつ魔力まりょくのせいと見做した。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
さればこそはんじいさんの酒へは微量な眠り薬をこんじ、巧雲へすすめたお銚子ちょうしのものへは媚薬びやくを入れてあったのだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……」私は黙ってうなずいた。それは例の媚薬びやくなどを入れた密造酒のことを指すのであろう。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
思わず、三人とも異口同音に、低くうめいた。そのなかは、まるで春のように明るく、暖かく、気のせいか、何か媚薬びやくのように甘い、馥郁ふくいくたる香気こうきすらただよっているのが感じられた。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
が、気疾きばやくびからさきへ突込つっこむ目に、何と、ねやの枕に小ざかもり、媚薬びやく髣髴ほうふつとさせた道具が並んで、生白なまじろけた雪次郎が、しまの広袖どてらで、微酔ほろよいで、夜具にもたれていたろうではないか。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
媚薬びやく取り出しこころみし
吹けよ、また媚薬びやくの嵐。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
嘆きや悲しみさえも小唄こうたにして、心の傷口を洗って呉れる。媚薬びやくしびれにも似た中欧の青深い、初夏の晴れた空に、夢のしたたりのように、あちこちに咲きほとばしるマロニエの花。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
舟も揺れ頃、潮も上がる時分とみたら、わたしがその日、たんまりお酒に媚薬びやくを入れて、眼合図でおすすめしましょう。そしてわたしは買物に出て行っちまう。あとは旦那の腕しだい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吹けよ、また媚薬びやくの嵐。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)