大刀だんびら)” の例文
楠木勢の先鋒せんぽうといえば、そのあらかたが、日傭兵ひやといへいといってもよい、半裸同様な軽装に、ただ大刀だんびらや長柄を振り廻すものが多かったのだ。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、此の乱心ものは、あわただしさうに、懐中をけ、たもとを探した。それでもさやへは納めないで、大刀だんびらを、ズバツとたたみ突刺つっさしたのである。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
決して恨んでたもるまい此場にのぞんで左右どうかう言譯いひわけするも大人氣おとなげなし永き苦しみさせるのも猶々不便が彌増いやませばと再度ふたゝび大刀だんびら振上ふりあげていざ/\覺悟と切付るやいばの下に鰭伏ひれふして兩手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いきなり大刀だんびらを抜くてえと、真向から辰兄哥をばらりずんと斬り放した」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「む、大納言殿御館おやかたでは、大刀だんびらを抜いた武士さむらいを、手弱女たおやめの手一つにて、黒髪一筋ひとすじ乱さずに、もみぢの廊下を毛虫の如く撮出つまみだす。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
嵐のように殺到した一団の人影は、各〻大刀だんびらを引ッさげて滅茶滅茶に踏みこわされた小屋の跡を右往左往しながら二人の者の名を呼んだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
といって、誰あって、先に大刀だんびらかざして斬りこんで来る者もない。また、武蔵の眼光がそうさせなかったともいえる。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大刀だんびらを突着けの、物凄くなった背後うしろから、襟首を取ってぐいと手繰つけたものがあったっさ。天狗だと思って切ってかかったが、お前、暗試合やみじあい盲目めくらなぐりだ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と笊組の町奴荒神の十左衛門と臂の久八が、生不動を目がけて大刀だんびらをふりつけて行くと、同時に真ッ暗な胴の間、ともの方でも、凄まじい斬り合いが現出した。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背後うしろをのさのさとけて来て、阿爺どの。——呼声は朱鞘しゅざや大刀だんびら、黒羽二重、五分月代ごぶさかやきに似ているが、すでにのさのさである程なれば、そうした凄味すごみな仲蔵ではない。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
という一喝——抜き打ちの大刀だんびらと、はねおどッた五体とが、ほとんど同時にお粂の襟筋へ飛びつきました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかに工面のしようがないので、お伽堂へ大刀だんびらさ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新九郎が励ます声に、おおと、はじかれて大刀だんびらを引き抜いた二人、ぱッと足許から泥水をねて
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「妙な奴らだ、大刀だんびらでも抜いてみやがれ、こっちから先にグワンと一つ食らわしてやるから」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またもう一名は、古物だが、錦襴きんらん腰帯こしあてに、おなじく大刀だんびらたいし、麻沓あさぐつの足もかろげに、どっちもまず、伊達な男ッ振りといえる旅の二人が、何か、笑い声を交わしながら峠を北へ降りかけて来た。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)