ほこり)” の例文
だから熊さんの水撒車の通ったあとは、いくら暑い日でも涼しくて、どんな風の強い日でも、ほこり一ツ立ちませんでした。
と言いながら、一人の御客様はたもとから銀縁の大きな眼鏡を取出しました。玉のほこり襦袢じゅばん袖口そでぐちで拭いて、釣針つりばりのようにとがった鼻の上に載せて見て
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたくしは草稿を入れた大きな紙袋の三ツ四ツ、ほこりだらけになつたのを棚の上から取おろして渡したことがあつた。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
生きている様にこちらを向いて笑いかけている大黒だいこく様の顔だとか、すごい様な美人の青ざめた首だとか、それが薄ぼんやりした五燭程の電燈に照されて、ほこりだらけのガラスの中に
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
泉原いずみはらは砂ほこりまみれた重い靴を引きずりながら、長いC橋を渡って住馴すみなれた下宿へ歩を運んでいた。テームス川の堤防に沿って一区かくをなしている忘れられたようなデンビ町に彼の下宿がある。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
果して世の中はこれほどほこりっぽく騒々しくあらねばならないものだろうか。
いよいよ競馬の催が始まるということになりましたので、四千の群集はほこりを揚げて、馬場の埒際らちぎわへ吾先にとけて参ります。源は黄色い土烟をいで噎返むせかえりました。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丁度其女房が箕を振る度に、空殻しひなほこりが舞揚つて、人々は黄色い烟を浴びるやうに見えた。省吾はまた、母のわきに居る小娘を指差して、彼が異母はらちがひの妹のお作であると話した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)