塑像そぞう)” の例文
千種十次郎と早坂勇は、五六間飛退とびのきました。炎の中には忿怒の塑像そぞうのような博士が、全身焼けただれ乍ら、カッと此方こっちを睨んで居るのです。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
お美代と大隅理学士とは、共に武夫少年の安否を気づかいながら、暫くは言葉もなく、その涼しい丘の上に塑像そぞうのようにじっと並んで坐っていた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ツクネルとはねあげることで、現在の餅や団子はつくねはしないが、本来が生粉の塑像そぞうであったために、今にその名前を継承しているのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だから、瞼が閉じられると同時に、蝋質撓拗性フレキシビリタス・ツェレアそっくりに筋識を喪った身体が、たちまち重心を失って、その場去らず塑像そぞうのように背後に倒れたのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
* この後三月堂内の閉ざされた廚子のなかに塑像そぞうの非常にすぐれた吉祥天女像があるのを見た。破損はひどいが頭部と胴体と下肢とはまだしっかりしていた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
アッシェンバッハが、塑像そぞう的なへだたりをおかずに、くわしく、かれの人間性のさまざまなこまかい点をこめて、かれを知覚し認識したほどの近さなのであった。
とはいえ、曹操という者の性格には、いかにも東洋的英傑の代表的な一塑像そぞうを見るようなものがある。
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋作氏は窓ぎわの椅子にかけ、いぜんとしてこちらへ背中を向けたまま、塑像そぞうのように微動もしない。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
塑像そぞうのように縋り合っている二人の上へ降りかかっているものは、なんどりとした春陽であり、戦声が絶えたので啼きはじめた小鳥の声であり、微風に散る桜の花であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
またハントがカーライルの細君にシェレーの塑像そぞうを贈ったという事も知れている。このほかにエリオットのおった家とロセッチの住んだやしきがすぐそばの川端に向いた通りにある。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時として頭蓋骨などなくても立派に塑像そぞうを作ることができますけれど、肖像画や写真が無くとも、頭蓋骨さえあれば、立派に生前どおりの顔を作ることができるのであります。
頭蓋骨の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
塑像そぞうの材料だとか、石膏の塊だとか、額縁のこわれたの、脚のとれた椅子、テーブルなどが、隅々に転がっている中に、非常に大きな、まるでお祭りの山車だしみたいな感じのものが
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで、塑像そぞうを作る人に廉く売って、仏像のひたいの珠に用いるのほかはなかった。
長兄が三十歳のとき、私たち一家で、「青んぼ」という可笑おかしな名前の同人雑誌を発行したことがあります。そのころ美術学校の塑像そぞう科に在籍中だった三男が、それを編輯へんしゅういたしました。
兄たち (新字新仮名) / 太宰治(著)
塑像そぞうのように固まってあえて身動きもなし得なかった。
妙子はモデル台の上に崩折れて「歎き」と題する塑像そぞうのように、シクシクと泣いて居りましたし、巽九八郎は、私が小切手を突き付けたのも知らずに
三人の記者たちはその隅に塑像そぞうの如く停止し、ワーナー博士たちの観測を出来るだけ邪魔しまいと控えていた。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
その最も代表的な例を我々は三月堂本尊に侍立せる白く剥落せる二つの塑像そぞう日光にっこう月光がっこう)や、戒壇院の四天王や、聖林寺しょうりんじ十一面観音などに見いだすことができる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
二人の上に月の光がさしかけて、まるで、ジェンナの親子の、あの有名な塑像そぞうのように見えましたよ。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わきの下はまだ塑像そぞうと同じようにすべすべしているし、ひかがみはきらきらと光って、そのうす青い脈管は、かれのからだを、なんだか普通よりも清澄な物質でできているように見せた。
その証拠には、隣組の人たちはもう誰も発言せず、夕暗ゆうやみの迫る中にじっと塑像そぞうのように立ちつくしていた。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
推古天平室の中央にすわっている広隆寺の弥勒みろく*(釈迦しゃか?)塑像そぞうとを比べて見ればわかる。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
悲しく挙げた顔は塑像そぞうのように硬張こわばって、蒼白い頬は涙のあともなく乾き切っておりました。これは満足しきった人の顔です。しかも、この世の人とも思えぬ美しい顔だったのです。
すると先生は蒼白そうはくにして、塑像そぞうのように硬直していた。そして先生の眼は戸口へくぎづけになっている!
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたくしはこの像が塑像そぞうであることをつい忘れてしまいそうであった。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
綾子は名匠の刻んだ「悲しみの塑像そぞう」のような乙女おとめでした。
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
さすがの帆村も呆然ぼうぜんとして、しばらくは春部のことも何もかも忘れて、塑像そぞうのように突立っていた。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)