しはが)” の例文
『あゝゝ。』といふ力無い欠呻あくびが次の間から聞えて、『お利代、お利代。』と、しはがれた声で呼び、老女としよりが眼を覚まして、寝返りでもたいのであらう。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しはがれた声から察するとかなりの年配らしいが、なかなか承知しないと見え、争ひは益々烈しくなつて、果は彼らの身体が雨戸にぶつつかり、今にもその頼りなく
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
しかし母がある時ふいにしはがれ声で民子に呼びかけ、民子がのぞきこむと母はぢつと民子の眼の中に見入つてゐるだけで何も云はない、その奇妙にはりつめた瞬間を
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
その外は机も、魔法の書物も、床にひれ伏した婆さんの姿も、まるで遠藤の眼にははひりません。しかししはがれた婆さんの声は、手にとるやうにはつきり聞えました。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『あゝ貴方あなたこゝれられましたのですか。』とかれしはがれたこゑ片眼かためほそくしてふた。『いや結構けつこう散々さん/″\ひとうしてつたから、此度こんど御自分ごじぶんはれるばんだ、結構々々けつこう/\。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
男の聲はしはがれた中にも熱を帶びて居た。
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
骨のやうになつた梢のしはがれ聲
しはがれごゑに、竹箒たけばうき
かさぬ宿 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
時によると又幅の広い肩を揺すつて、しはがれた笑ひ声を洩す事もあつた。それは無骨ぶこつなトルストイに比べると、上品な趣があると同時に、何処どこか女らしい答ぶりだつた。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だから、冗談じようだんを云ひかける客には、思ひもつかぬしはがれて太くなつた声で応酬して驚かすのである。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
さう云ふ意味のことを手を振り唇をふるはせて、しはがれた鋭い声で喚き立てた。
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
男の声はしはがれた中にも熱を帯びて居た。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
やがてあの魔法使ひが、ゆかの上にひれ伏した儘、しはがれた声を挙げた時には、妙子は椅子に坐りながら、殆ど生死も知らないやうに、いつかもうぐつすり寝入つてゐました。
アグニの神 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あの男は例の通り、香染めの狩衣にえた烏帽子を頂いて、何時もよりは一層気むづかしさうな顔をしながら、恭しく御前へ平伏致しましたが、やがてしはがれた声で申しますには
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)