唾液つばき)” の例文
何の事あねえ不動様の金縛りを喰った山狼やまいぬみてえな恰好で、みんな指をくわえて、唾液つばきを呑み呑みソンナ女たちを眺めているばかりでした。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうして窓から唾液つばきをした。するとその唾液が汽車の風で自分の顔へ飛んで来た。何だか不愉快だった。前の腰掛で知らない男が二人弁じている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いや、確かに、その亢奮を感じたのだ、唾液つばきをつけて遣るだけなら、何も、舐めてやる程の事もないだろうから——。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その間庄造は「うツ」とか、「ペツ、ペツ」とか、「ま、待ちいな!」とかあいを入れて、顔をしかめたり唾液つばきを吐いたりするけれども、実はリヽーと同じ程度に嬉しさうに見える。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
鼻孔から、喉頭が、マラソン競走をしたあとのように、乾燥し、こわばりついている。彼は唾液つばきを出して、のどを湿そうとしたが、その唾液が出てきなかった。雪の上に倒れて休みたかった。
渦巻ける烏の群 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
彼は音をさして唾液つばきをのみ込んで、それから話し出した。
林檎 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ねばつこい唾液つばきとゝもに呑み込んだ。
新婚旅行 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
老伯爵は棒立ちに突立ったまま、眼を白黒させて唾液つばきんだ。吾輩も余りの事に、棒立ちに突立ったまま、唾液つばきを嚥まざるを得なくなった。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あごの奥から締めつけられて、やむをえない性質たち唾液つばきが流れ出す。それにいざなわれるままにしておくと、きたくなる。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒吉は、妖しく眼を光らせながら、あたりをぬすみ見ると、やがて、意を決したように、その葉子の唾液つばきで湿ったに違いない煎餅のかけらを、そっと唇に近づけた……。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
その間庄造は「うッ」とか、「ペッ、ペッ」とか、「ま、待ちいな!」とかあいを入れて、顔をしかめたり唾液つばきを吐いたりするけれども、実はリリーと同じ程度に嬉しそうに見える。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「チョット待ってくれ美鳥みいちゃん……イヨイヨおかしい。美鳥みいちゃんは僕の留守に、へっついの神様へ唾液つばきを吐きかけるか何かしたんだね」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかも頬張ほおばったやつを、唾液つばきぜずに、むやみにくだすので、咽喉のどが、ぐいぐいと鳴るように思われた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その間庄造は「うツ」とか、「ペツ、ペツ」とか、「ま、待ちいな!」とかあいを入れて、顔をしかめたり唾液つばきを吐いたりするけれども、実はリヽーと同じ程度に嬉しさうに見える。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
傷に唾液つばきをつける事は、彼等の中でありふれた、最も原始的な、治療法だった。しかし、葉子が、唯、本当の親切心から舐めて遣ったのだろうか——。尠くとも黒吉は、彼女の親切と信じていた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
事実は常に研究に先立って存在するものである……と云ったらチョット眉に唾液つばきを付けてみたくなるであろう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この壁土が唾液つばきけて、口いっぱいに広がった時の心持は云うに云われなかった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分は無念の形相ぎやうさうをたゝへて瞳を一点に凝らしたまゝ、眼瞼まぶたを細目に開けてゐたが、口に唾液つばきがたまつても呑み込むこともならず、鼻のあながむづがゆくなつても、顔をしかめる訳に行かず
それから私の手の下で、小さな咽喉仏のどぼとけを二三度グルグルとわして、唾液つばきをのみ込むと、頬を真赤にしてニコニコ笑いながら、いかにも楽しそうに眼をつむった。
冗談に殺す (新字新仮名) / 夢野久作(著)
芸者が京紅きょうべに着けたら、唇を唾液つばきらさんようにいつも気イ付けてるねんて。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私は緊張して唾液つばきみ込んだ。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老婆は縁側へ両手を突いたまま、乾涸ひからびた咽喉のどを潤おすべくグッと唾液つばきを嚥み込んだ。
と十内は無念そうに唾液つばきを嚥み込んで、眼をギョロリと光らした。