唐衣からぎぬ)” の例文
意匠を凝らせた贈り物などする場合でなかったから、故人の形見ということにして、唐衣からぎぬ一揃ひとそろえに、髪上げの用具のはいった箱を添えて贈った。
源氏物語:01 桐壺 (新字新仮名) / 紫式部(著)
その翌年十一月二十二日に臨終正念にして端座合掌の往生をとげられたというが、その往生際は、唐衣からぎぬを着て、袈裟けさをかけて西の方に阿弥陀仏を掛け
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柳、桜、山吹、紅梅、萌黄もえぎなどのうちぎ唐衣からぎぬなどから、鏡台のあたりには、釵子さし、紅、白粉など、撩乱りょうらんの様であった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刑台に据えられた花世の着ている浮線織赤色唐衣からぎぬは、最後の日のためにわざわざ織らせたのだというが、舞いたつような色目いろめのなかにも、十六歳の少女の心の乱れが
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あの煙にむせんで仰向あふむけた顔の白さ、焔をはらつてふり乱れた髪の長さ、それから又見る間に火と変つて行く、桜の唐衣からぎぬの美しさ、——何と云ふむごたらしい景色でございましたらう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
こんなことをかおるは言いながらへやの中を見ると、唐衣からぎぬは肩からはずして横へ押しやり、くつろいだふうになって手習いなどを今までしていた人たちらしい。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
刑台に据えられた花世が着ている浮線織の赤色唐衣からぎぬは、最後の日のためにわざわざ織らせたものだといわれるが、舞いたつような色目いろめのなかにも、十六歳の気の毒な少女の心の乱れが
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
きらびやかなぬひのある桜の唐衣からぎぬにすべらかし黒髪が艶やかに垂れて、うちかたむいた黄金の釵子さいしも美しく輝いて見えましたが、身なりこそ違へ、小造りな体つきは、色の白いうなじのあたりは
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
紅の黄がちな色のはかまをはき、単衣ひとえ萱草かんぞう色を着て、濃いにび色に黒を重ねた喪服に、唐衣からぎぬも脱いでいたのを、中将はにわかに上へ引き掛けたりしていた。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
大人は唐衣からぎぬ、童女はかざみも上に着ずくつろいだ姿になっていたから、宮などの御座所になっているものとも見えないのに、白いうすものを着て、手の上に氷の小さい一切れを置き
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
菖蒲しょうぶ重ねのあこめ薄藍うすあい色の上着を着たのが西の対の童女であった。上品に物馴ものなれたのが四人来ていた。下仕えはおうちの花の色のぼかしの撫子なでしこ色の服、若葉色の唐衣からぎぬなどを装うていた。
源氏物語:25 蛍 (新字新仮名) / 紫式部(著)
中宮ちゅうぐうから白い唐衣からぎぬ小袖こそで髪上くしあげの具などを美しくそろえて、そのほか、こうした場合の贈り物に必ず添うことになっている香のつぼには支那しな薫香くんこうのすぐれたのを入れてお持たせになった。
源氏物語:29 行幸 (新字新仮名) / 紫式部(著)
はなやかな殿上役人も多かった四位の六人へは女の装束に細長、十人の五位へは三重がさね唐衣からぎぬの腰の模様も四位のとは等差があるもの、六位四人はあやの細長、はかまなどが出された纏頭てんとうであった。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
唐衣からぎぬまでは着ぬがだけはつけて勤めているのは哀れなことであった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)