唐天竺からてんじく)” の例文
「いったん買って出るといったからにゃ、おれもむっつり右門じゃねえか。まさかに唐天竺からてんじくまでもおっ走ったんじゃあるめえよ」
「また海へお出になるのでございましょうね。このたびは、どちらへ? 唐天竺からてんじくでございますか。それとも、南蛮なんばんとやら——。」
しかし、こうして覚えのある足に馬力をかけてさえいれば、たとえ安達ヶ原であろうと、唐天竺からてんじくであろうと、おくれを見せるがものはない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
唐天竺からてんじくまで荒しまわっても、一代では五十万両の金をつかめねえ。……廈門アモイの居酒屋で問わず語らずの金三郎の身の上話。
顎十郎捕物帳:20 金鳳釵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「これは驚いた、これほどの猛毒は、日本はもとより唐天竺からてんじくにも聞いたことがない。附子ぶしちんといったところで、これに比べると知れたものだ」
「へえへえこれは有難いことで」駕籠屋喜んで両手をこすり、「親分さんのお供なら、唐天竺からてんじくへでも参ります。さあさあどうぞお乗んなすって」
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「国は多いよ、海は広いよ、けれど何千何万里、まわってみたって、日本のような国は、ありはしない。唐天竺からてんじくといったって、ありはしない」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうして貴方あなたはそんなにまあ唐天竺からてんじくとやらへでもおで遊ばすように遠い処とお思いなさるのでございましょう。」
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほかのものはとにかくと致して日本一お江戸の名物と唐天竺からてんじくまで名の響いた錦絵まで御差止めになるなぞは
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
外のものは兎に角と致して日本一お江戸の名物と唐天竺からてんじくまで名の響いた錦絵にしきえまで御差止めに成るなぞは
三月三十日 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あるいは金毛九尾の狐が、唐天竺からてんじくからやって来て、大阪市長にばけて出ておるのかも知れない。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
この世知辛い世に顔や縹致で女房を貰う者は、唐天竺からてんじくにだってありはしない。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
早い話が、理屈で世間がどうか、なるならもう、とうに人間はみんな幸福しあわせになっているだろうと思われるんだ。日本にゃあ、神の道があるし、唐天竺からてんじくにゃあ孔子こうし孟子もうし、お釈迦しゃかさんもおいでなのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「いやじゃねえ、いやじゃねえ。そりゃ行けとおっしゃりゃ唐天竺からてんじくにだって行きますがね。こんなに夜ふけじゃ、ご門もあいちゃいませんぜ」
従って京の一千五百里もあてにならぬことの骨頂だが、靺鞨国というイヤにむずかしい国名はあんまり見かけないが、唐天竺からてんじくのことでもあるかな。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「それは申すまでもございませんよ。お前さんの縹緻きりょうと来た日には、唐天竺からてんじくにもないということで」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
唐天竺からてんじくか、いや違った、やまと、もろこしですか、いぎりす、あめりかか、そんな、まだるっこしいことはおいて、お願いです、二の橋か、一本松へ連れてって頂きたい。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
諸行しょぎょう無常は浮世のならいそれがしの身の老朽おいくち行くは、さらさら口惜くちおしいとも存じませぬが、わが国は勿論もちろん唐天竺からてんじく和蘭陀オランダにおきましても、滅多めったに二つとは見られぬ珊瑚玳瑁たいまいぎやまんのたぐい
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「行きましょう。こうなりゃ、唐天竺からてんじくまでも参りましょう」
桜田門なんて、まるで唐天竺からてんじくのような気がする。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まず、あれを一緒に連れ出して、名古屋見物から、伊勢参り、京大阪、四国九州、お前さんとならば唐天竺からてんじくでもどこでもいいから、ひとつ引廻して来てくれまいか。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さようにござります。中仙道へ参ろうと、東海道へ参ろうと、ことによったら唐天竺からてんじくまでお捜しなすっても、ちょっとあいつめを見つけること困難でござりましょうよ」
唐天竺からてんじくの果てまでもという気分になりたがるものです。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)