双頬そうきょう)” の例文
旧字:雙頬
そういったかと思うと、三十年間の櫛風沐雨しっぷうもくうで、あかがねのように焼け爛れた幸太郎の双頬そうきょうを、大粒の涙が、ほろりほろりと流れた。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
裂帛れっぱくの美声を放って、さッと玉散るやいばを抜いて放つと、双頬そうきょうにほのぼのとした紅色を見せながら、颯爽さっそうとして四人の者の方ににじりよりました。
青年は案外に健康さうな双頬そうきょうに純真な火照ほてりを漂はせて明子をまぶしさうに見上げてゐた。明子の顔を微笑が波うつた。二人はうなづき合つて外に出た。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
すじ向いに座を構えたまうを帽のひさしよりうかゞい奉れば、花の御かんばせすこし痩せたまいて時々小声に何をか物語りたまう双頬そうきょうに薄紅さしておもはゆげなり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
これ母親の死をかなし別離わかれに泣きし涙の今なお双頬そうきょうかかれるを光陰の手もぬぐい去るあたわざるなりけり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
要するに顔面における「いき」の表現は、片目をふさいだり、口部を突出させたり、「双頬そうきょうでジャズを演奏する」などの西洋流の野暮さと絶縁することを予件としている。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
と、老婆おさよの口より聞くや否や、諏訪栄三郎の双頬そうきょうにさっと血の気が走った。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しばらくすると、中野君は千以上陳列せられたる顔のなかで、ようやくあるものを物色し得たごとく、豊かなる双頬そうきょう愛嬌あいきょううずを浮かして、かろ何人なんびとにか会釈えしゃくした。高柳君は振り向かざるを得ない。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
九尺柄タンポ槍の敵の得物をぴたりと片手正眼に受けとめたあざやかさ! ——双頬そうきょう、この時愈々ほのぼのと美しくべにを散らして、匂やかな風情ふぜいの四肢五体、凛然りんぜんとして今や香気を放ち
張り詰めていた気が砕けて、涙はとめどもなく、双頬そうきょう湿うるおした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
血が双頬そうきょうのぼってくる。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)