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卯平
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うへい
卯平は
其の
薄暗い
家の
中に
只煙草を
吹かしては
大きな
眞鍮の
煙管で
火鉢を
叩いて
居た。
卯平と
勘次とは
其の
間碌に
口も
利なかつた。
雲霧は——ははあ、もう牢番の交代時刻か——
卯平がやって来たな、と直感した。
お
品の
病氣を
案ずる
外彼の
心には
何もなかつた。
其當時には
卯平に
不平をいはれやうといふやうな
懸念は
寸毫も
頭に
起らなかつたのである。
「
此の
野郎こんな
忙しい
時に
轉がり
込みやがつてくたばる
積でもあんべえ」と
卯平は
平生になく
恁んなことをいつた。
勘次は
後で
獨り
泣いた。