効能ききめ)” の例文
旧字:效能
『モー結構けっこうでございます。』おぼえずそうって御免ごめんこうむってしまいましたが、このことたいへんわたくしこころおちつかせるのに効能ききめがあったようでございました。
彼は遠くにいる父の顔を眼の前に思い浮べながら、苦笑して筆をいた。手紙を書いてやったところでとうてい効能ききめはあるまいという気が続いて起った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
湯豆腐屋で名高い高津神社の附近には薬屋が多く、表門筋には「昔も今も効能ききめで売れる七福ひえぐすり」
大阪発見 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
あなたの宗教は御主人への御飯仕度に多少とも効能ききめがございましたかしら、御主人はあなたが宗教をお信じになつてから、ずつとお幸福しあはせでいらつしやいますかしら。それから……
しかし射撃をこばんだということが、僕の予想を大いに力づけて呉れる効能ききめはあった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
捲込まきこまれざるを得ないのは、半襟二掛ばかりの効能ききめじゃ三日と持たない。すぐ消えて又元の木阿弥になる。二掛の半襟は惜しくはないが、もう斯うなると、いきおいに乗せられた吾が承知せぬ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼はひらり身を躍らせると高く空へ飛び上がったが隠形おんぎょうの術とでも云うのであろう、足の方から自然に消えた。しかし、相手は妖精である。人間に対しては隠形の術でも彼らには一向効能ききめがない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
肉体にくたいのあるものにはみずたれるのもあるい結構けっこうでございましょうが、わたくしどもにはあまりその効能ききめがないようで……。
其時はしんに其積りであながち気休めではなかったのだが、彼此かれこれ取紛とりまぎれて不覚つい其儘になっている一方では、五円の金は半襟二掛より効能ききめがあって、それ以来お糸さんが非常に優待して呉れるが嬉しい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかし何の効能ききめもなかった。「駄目でしょうか」という苦しく張りつめた問が、固く結ばれた主人のくちびるれた。そうして絶望をおそれる怪しい光にちた三人の眼が一度に医者の上にえられた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無論半襟二掛の効能ききめとは迂濶うかつの私にも知れた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)