前途むこう)” の例文
ツンと横を向く、脊がきっと高くなった。ひっかなぐって、その手巾をはたとつちなげうつや否や、もすそけって、前途むこうへつかつか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とばかりおびえるように差出した三世相を、ものをも言わず引掴ひッつかんで、追縋おいすがって跡に附くと、早や五六間前途むこうへ離れた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや! 出来た、これなら海をもぐっても濡れることではない、さあ、真直まっすぐ前途むこうへ駈け出せ、えい、と言うて、板でたれたと思った、私のしりをびたりと一つ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と気軽に飛出し、表門の前を足早に行懸ゆきかかれば、前途むこうより年わかき好男子の此方こなたに来懸るにはたと行逢いけり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
牡丹の花の影を、きれいな水から、すっと出て、斑蝥の前へくと思うと、約束通り、前途むこう退さがった。人間に対すると、その挙動は同一おんなじらしい。……白鷺が再び、すっと進む。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここへ来た時……前途むこう山の下から、頬被ほおかぶりした脊の高い草鞋わらじばきの親仁おやじが、柄の長い鎌を片手に、水だか酒だか、縄からげの一升罎いっしょうびんをぶら下げたのが、てくりてくりと、畷を伝い
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と言って、それなり前途むこうへ、蘆を分ければ、ひさしを離れて、一人は店を引込ひっこんだ。いその風一時ひとしきりくものを送って吹いて、さっと返って、小屋をめぐって、ざわざわと鳴って、寂然ひっそりした。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若衆は清涼剤きつけを飲んだように気が変って、今まで傍目わきめらずにいましたひきがえるの虹を外して、フト前途むこうを見る、と何と、一軒家のかどを離れた、峠の絶頂、馬場の真中まんなか背後うしろへ海のような蒼空あおぞらを取廻して
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あれ、あの大崩壊おおくずれの崖の前途むこうへ、皆が見えなくなりました。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と聞いた時、境は早や二三間、前途むこうへ出ていた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)