前褄まへづま)” の例文
「何しろ、大變な女でした。くびり殺されても、前褄まへづまをピタリと合せて、ふくらはぎも見せないんだから、良いたしなみでせう」
たもとすべつてちうまつた、大切たいせつ路銀ろぎんを、ト懷中ふところ御直おんなほさふらへと据直すゑなほして、前褄まへづまをぐい、とめた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
八五郎は前褄まへづまを直して、十手を打ち込んでお待ち遠樣とも言はずに平次の待つてゐる路地へ出ました。
たもとを、はつとみだすと、お納戸なんど扱帶しごきめた、前褄まへづましぼるばかり、淺葱縮緬あさぎちりめん蹴出けだしからんで、踏出ふみだ白脛しらはぎを、くささきあやふめて……と、吹倒ふきたふされさうに撓々たわ/\つて、むねらしながら
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
頬の堅さがほぐれて、自分の端たない樣子を耻ぢるやうに前褄まへづまを合せたりしました。
その部屋の眞ん中に、座布團を半分敷いて、好い年増が引つくり返り、首に赤い扱帶しごきを卷いたまゝ、腰から下は、前褄まへづまをきりゝと合せて、寸毫すんがうの亂れもないのが不思議に目立ちます。
娘はさすがに極りが惡かつたものか、床の上へ起き直らうとしましたが、眩暈めまひでもしたものか、あわてて前褄まへづまを掻き合せて俯向うつむきになつてしまひました。どこかひどく痛む樣子です。
女はさう言ふうちにも、肌を入れて前褄まへづまを直しました。
「胸から前褄まへづまへ、かなりの血だ」
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)