前様まえさま)” の例文
旧字:前樣
わたくし、金がなければお前様まえさまとも夫婦になれず、お前様の腹の子の始末しまつも出来ず、うき世がいやになり候間そうろうあいだ、死んでしまいます。
温泉だより (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どうしまして、邪魔も何もござりましねえ。はい、お前様まえさま、何かたずねごとさっしゃるかね。彼処あすこうち表門おもてもんしまっておりませども、貸家かしやではねえが……」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はははは。お前様まえさまは、おなじ名代なだいなら、やっぱりおせんのほうが、御贔屓ごひいきでげしょう」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
又八どの、此度このたび、御縁の候て、当方の養子にもらいうけ候に就いては、おん前様まえさまのこと、懸念のようにみえ候まま、左候さそうろうては、ゆく末、双方の不為故ふためゆえ事理ことわけおあかし申し候て、おもらい申候。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前様まえさまア丹波屋でまんまアたべて居たが、雨たんと降らねえうち段々人が出て来たが、まだ沢山客がえうちうらと此の鹿はちはすけえに並んで飯たべて居ると、お前様ア斯う並んで酒え呑んで
「根ツからゐさつしやらぬことはござりますまいが、日は暮れまする。何せい、御心配なこんでござります。お前様まえさま遊びに出します時、帯のむすびめをとんとたたいてやらつしやればいに。」
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なにもかもござりませぬ。あのおびは、太夫たゆう今度こんど芝居しばいにはなくてはならない大事だいじ衣装いしょう手前てまえがひとりでったとて、春信はるのぶさんはわたしておくんなさいますまい。どうでもお前様まえさまを一しょれて。——
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
下女「お前様まえさま知って居る人か」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)