出会でくわ)” の例文
旧字:出會
こういう場面によく出会でくわすらしい藤枝も、ひろ子を慰めるのにはちよつと困つたとみえ、しばらく、ばつのわるいような沈黙がつづいた。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
そして自分が今何か大きな運命的なものの前で、ぽつんと立つてゐるやうな不安と、新しいことに出会でくわすに違ひないといふ興味とを覚えた。
間木老人 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
それに思わぬ事件や、思わぬ人物に出会でくわして、何かの意味でそれをあしらうことが、なかなか修行になるものだと心得ている。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも、その青木と不用意に、銀座通りで出会でくわすなどということは、彼の予想すべき最後のことであった。彼は狼狽してはならないと思った。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「野郎、覚えておくがええぞ、一度でも出会でくわしたなら、貴様の首ねっこはもうねえと思うんだぞ、やい、この半兵衛野郎!」
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
亡霊といっても他人の亡霊にではないが、僕自身の亡霊には僕はたびたび出会でくわしたよ。……お前にはそんな経験はあるまい?
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
今までに幾多の悪戦苦闘、冒険に冒険を重ねてきたさすがの彼も、こんな怪奇な障害に出会でくわした事は一度もなかった。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
そうして、一週間ばかり過ぎた或る晩の事、私は図らずも不思議な因縁から、もッと奇怪なもッと物好きな、そうしてもッと神秘な事件の端緒に出会でくわした。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
寂しき人々アインザーメメンシェン」のブラウン見たいな、まあよく銀座あたりのカフェーで出会でくわすような、天鵞絨ビロードの洋服を着て、髪もやっぱり画家流に刈り込んで(?)あった。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
「あなたと一緒に歩いている時、いつか菊坂の裏通りで出会でくわしたじゃありませんか。あれがそれですよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし、衣類や所持金や高価な腕時計などが盗まれなかったところをみると、偶然出会でくわした暴漢に殺されたのではないようだ。計画的殺人か自殺かのいずれかであるらしい。
またある日私の先輩の一人が老眼鏡をかけた見馴れぬ顔に出会でくわした。そして試みにその眼鏡を借りて掛けて見ると、眼界が急に明るくなるようで何となく爽やかな心持がした。
厄年と etc. (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
普通の人生では滅多に出会でくわさぬような悲劇の渦中にあって、身心共に疲れているだろうに、よく今度の詳しい手紙を書いてくれた。お蔭で、大体呑み込むことが出来たわけだ。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
それはわれこそ一かどのパリジャンになり切ったと思っているのに、フト日本人の野暮やぼ臭いのに出会でくわすと、自画像を見せつけられたようにハッと幻滅を感じるからだろうと思う。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
「大宇宙の中で、われわれの生命は、(さながら大きな闇の中に弧をえがいて飛んでいく一つの火花のようなものだといったら、いちばん当っている。)」という数行に出会でくわして
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
自分も実は大の聴聞脅迫党で、今まで随分謡曲嫌いを製造した覚えがあるが、ここに只一つ無類飛び切りの謡曲好きに出会でくわして、かえってヘトヘトに悩まされてりした珍談がある。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と口々に叫びながら、首を自分の身体から切り離した数名の男がおのおの首を手に持って、街から街に売り歩いているのに出会でくわした。賀川市長はこれを見てまったく驚いてしまった。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
誰れかそのうちの者に出会でくわすだろうかも知れないと、あたりに注意して歩いた。僕はいつも考え込んでいるので外へ出ても、こんなにそわそわしい歩き方をすることは滅多にないのだ。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
折よく山羊の群を飼っている男に出会でくわしたので、ペテロがその男を呼びとめて
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
いわんや、出会でくわした奴ならどこの馬の骨でも一切合財隣人と看做みなすにいたっては、ありがたい仕合わせながら、思慮がなさすぎるというものだ。人に対する態度に公正を欠くというものだ。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
誰かあゝお隅か妙な処で出会でくわしたなア、先生/\麹屋の隅でございます、能く来たなア、え隅か、是はうもあやまれ/\、重々何うも済まぬ、先生/\お隅でございます、貴公知らなんだ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
警部は品川湾で、一度そいつに出会でくわしたことがある。あの時のは、ろう製の仮面であった。だが、今足の下にころがっている怪物は、仮面をかぶっているのではない。本当に、唇がないのだ。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人が出会でくわしたら、あの老紳士がどんな顔をして自分を見るだろうかと思うと彼は胸にずきりと傷みを覚えた。而も彼は自分の前に真直に横わっている道を知っていた。そして、それに従った。
おきのは、出会でくわした人々から、嫌味を浴せかけられるのがつらさに
電報 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
多くの場合に、出会でくわして
忘れられたる感情 (新字新仮名) / 小川未明(著)
わたくしは怖いものに出会でくわしました、怖ろしいことをして、人を嬲殺なぶりごろしにしているお方がありました、その方が、つまり今夜、尺八を吹いて
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
宇津も、間木まきといふ不思議な老人に出会でくわすまでは、感情に波をうたせるやうな変つたこともなかつた。L字型をした二つの病棟の有様も、彼にはもう慣れてゐた。
間木老人 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
「まつたくだ。まつたくだ。これでわれわれはまた大きな困難に出会でくわしてしまつたんだ」
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
でも、パッタリ出会でくわさなかったし、……それにお姉さまも一人じゃなかったでしょう。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
二人とも顔を見合わせて、一寸ちょっと、氷河の上で暴風雨にでも出会でくわしたような顔付きをした上、どうも今日一日だけは、是非トレーガーをと申し出でた、やがて二人とも人夫をさがしに行く。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
……こんな掴みどころのない、得体のわからない変死体に出会でくわした事は、実に、生れて初めてだったからである。これだけ腕を揃えた連中が判断に苦しんだのは尤も至極だと思ったからである。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こうして歩いているうちにはどこかで出会でくわすだろう、出会したら後をつけて手証てしょうを押えて町奉行へ訴え出るんだ。
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
問題は、顔色をかえてピヤノの部屋を出たやす子があれから誰に出会でくわしたかということだ。犯人はおそらくやす子と共に庭に出たか、やす子のあとをつけたと見なければならない。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
北イタリヤからスウィスへかけては、黴っ臭い風に障子の紙がたるんで、ぼとりぼとりっと、破れ三味線みたいな、変てこな音をたてる陽気は、まずまずあんまり出会でくわさないと云うことだ。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
今や、また、ここでこの強敵に出会でくわした。これを外すは、木に登って避けるよりほかはないと思いました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところが昨年の夏も終り近く、私はふと山の手の或る町で彼女と出会でくわしたのでした。
悪魔の弟子 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
こうやって万事にぬかりはないと信じてから、泥棒と叫んで表にとび出したのだが、意外にも早く、夜警の男に出会でくわしてしまったのだ。僕はすぐに筋道のたった話をしなければならない。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
呆気あっけに取られて返すべき言葉を知らないほどの事件に出会でくわさせました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)