佶屈きっくつ)” の例文
一、学生俳句に多くの漢語を用ゐて自ら得たりと為すも、佶屈きっくつに過ぎて趣味を損ずる者多し。漢語を用うるは左の場合に限るべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
すこぶる精微を極め、文辞また婉宕えんとうなり。大いに世の佶屈きっくつ難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君よわいわずかに二十四、五。
すこぶる精微を極め、文辞また婉宕えんとうなり。大いに世の佶屈きっくつ難句なる者と科を異にし、読者をして覚えず快を称さしむ。君よわいわずかに二十四、五。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人麿の作とすれば少し楽に作っているようだが、極めて自然で、佶屈きっくつでなく、人心を引入れるところがあるので、有名にもなり、後世の歌の本歌ともなった。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
佶屈きっくつと肩を怒らせ、皺の中から眼を光らせているような見てくれの悪い癇癪面かんしゃくづらの老人で、常住、黒木綿の肩衣に黒木綿の袴をはき、無反むそりの大刀をひきつけている。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とりわけ隠居所の前には亡きあるじ三郎左衛門さぶろざえもんが「蒼竜そうりゅう」と名づけた古木があって、佶屈きっくつとした樹ぶりによく青苔あおごけがつき、いつも春ごとにもっとも早く花を咲かせる。
日本婦道記:梅咲きぬ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さればその画風のっとに北斎に倣ふ処ありて一種佶屈きっくつなる筆法を用ひしもまた怪しむに足らず。余は芳年の錦絵にては歴史の人物よりも浮世絵固有の美人風俗画を取る。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これまでわが國において、案外その名が知られていないのは、一つはその佶屈きっくつな表現のためでもあろうが、主なる理由は、一般のドイツ文學者たちの怠慢のためではなかったかと思う。
風流を盛るべきうつわが、無作法ぶさほうな十七字と、佶屈きっくつな漢字以外に日本で発明されたらいざ知らず、さもなければ、余はかかる時、かかる場合に臨んで、いつでもその無作法とその佶屈とを忍んで
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
他の佶屈きっくつな少壮火山(形から見立てて)と異なったよい感じを与える。
女子霧ヶ峰登山記 (新字新仮名) / 島木赤彦(著)
調子が佶屈きっくつで言葉が難かしくって、我々にはわからない句が多いようであります。歌を忘れたカナリヤではなくって諷詠を忘れた俳句とでも申しましょうか。そういう俳句の横行するのは不愉快です。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
春琴の繊手せんしゅ佶屈きっくつした老梅の幹をしきりにで廻す様子を見るや「ああ梅のうらやましい」と一幇間が奇声きせいを発したすると今一人の幇間が春琴の前に立ちふさがり「わたい梅の樹だっせ」と道化どうけ恰好かっこう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一、あるいは解しがたきの句をものするを以て高尚こうしょうなりと思惟しいするが如きは俗人の僻見へきけんのみ。佶屈きっくつなる句は貴からず、平凡なる句はなかなかに貴し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
先年いろいろ世話になった大通詞の吉雄幸左衛門よしおこうざえもんや通詞の西善三郎なども招かれて来ていて、参府の折の本草会の話なども出たが、先生の胸中には悲哀の情と佶屈きっくつの思いがあるので
この歌も、その声調が流動性でなく、むし佶屈きっくつともうべきものである。然るに内容が実生活の事に関しているのだから、声調おのずからそれに同化して憶良独特のものを成就じょうじゅしたのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
真淵が『万葉』にも調しらべありあしき調ありということをいたく気にして繰り返し申し候は世人が『万葉』中の佶屈きっくつなる歌を取りて「これだから万葉はだめだ」などと攻撃するを
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
この間に立ちて形式の簡単なる俳句はかえって和歌よりも複雑なる意匠を現わさんとして漢語を借り来たり佶屈きっくつなる直訳的句法をさえ用いたりしも、そは一時の現象たるにとどまり
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
真淵が万葉にも善き調ちょうありあしき調ありといふことをいたく気にして繰り返し申し候は、世人が万葉中の佶屈きっくつなる歌を取りて「これだから万葉はだめだ」などと攻撃するを恐れたるかと相見え申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かくの如き佶屈きっくつなる調子も詠みやうにて面白くならぬにあらねどこの歌にてはいたずらに不快なる調子となりたり。筒様に結句を独立せしむるにはむすび一句にてかみ四句に匹敵するほどの強き力なかるべからず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そはとにかくに前の歌の結句といひこの歌の結句といひ思ひきりて佶屈きっくつに詠まるる処を見れば作者も若返りていはゆる新派の若手と共に走りツこをもやらるる覚悟と見えて勇ましとも勇ましき事なり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)