他生たしょう)” の例文
そこで尽きたからそれで死ぬのです……今生こんじょうの善根が、他生たしょうの福徳となって現われぬということはなく、前世の禍根が
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
皿茶碗の疵物きずものならば、きずのわかり次第棄てても仕舞しまおうが、生きた人間の病気は、そのようなものと同列には考えられぬ。袖振り合うも他生たしょうの縁とやら。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「君とこうしてはなしするのも他生たしょうの縁であろう。君が親もとに帰る考えがあるなら失敬ながら旅費は僕が手伝おう」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
(お泊め申すとなりましたら、あの、他生たしょうえんとやらでござんす、あなたご遠慮を遊ばしますなよ。)
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幾里の登り阪を草鞋わらじのあら緒にくわれて見知らぬ順礼の介抱に他生たしょうの縁を感じ馬子に叱られ駕籠舁かごかきあざけられながらぶらりぶらりと急がぬ旅路に白雲を踏み草花をむ。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
そでふり合うも他生たしょうえんとかいうから、そんなにあたしを嫌わなくってもいでしょう。今夜はここで仲好くお話をしましょうよ。(笑いながら。)あんたはこんな唄を御存じ……。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「一樹の蔭一河の流れ、袖振り合うも他生たしょうの縁とやら、何んのお礼に及びましょうぞ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ちょっとみるとなんの縁もゆかりもないようですが、ようく調べてみると、いずれも実は皆きわめて縁の深い関係にあるのです。つまずく石も縁のはしです。そでふりあうも他生たしょうの縁です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
今宵限こよいかぎりおぼろだものと、即興にそそのかされて、他生たしょうの縁のそでたもとを、今宵限りり合せて、あとは知らぬ世の、黒い波のざわつく中に、西東首をうずめて、あかの他人と化けてしまう。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが、実際には臨時工の女工たちは、私達は折角知り合っても又散り/\バラ/\になってしまう、そで触れ合うも他生たしょうの縁というので、臨時工の「親睦会」のようなものを作ろうとしている。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
僧一 そでの振り合いも他生たしょうの縁とか申します。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
袖すり合うも他生たしょうの縁。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
犬が竜之助を慕うのか、竜之助が犬を愛するのか、桑名の城下、他生たしょうの縁で犬と人とによしみが出来ました。この二つがどこまで行って、どこで別れることであるやら。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殺す気でかかれ。こっちは覚悟だ、さあ。ときに女房おかみさん、袖摺そですり合うのも他生たしょうの縁ッさ。旅空掛けてこうしたお世話を受けるのもさきの世の何かだろう、何んだか、おなごりがおしいんです。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
根っから詰らねえ痴話ちわでたあいもねえ、それは冗談でございますが先生、こんなことも他生たしょうの縁とやらでございましょうから、これからわっしどもも先生と御新造のおともをして
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)