一穂いっすい)” の例文
うしろの床には、伊弉諾尊いざなぎのみこと伊弉冊尊いざなみのみことの二神をまつって、そこにも一穂いっすい神灯みあかしと、一瓶いっぺい神榊みさかきと、三宝には餅や神酒みきが供えられてあった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一穂いっすい春灯しゅんとうで豊かに照らされていた六畳のは、陰士の影に鋭どく二分せられて柳行李やなぎごうりへんから吾輩の頭の上を越えて壁のなかばが真黒になる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その杭の上にささやかながんを載せて、浮世の波の押寄せる道の辻に立てて、かすかな一穂いっすい燈明とうみょうをかかげようと念じていたことも、今となってはそれもはかない夢であった。かれには夢が多すぎた。
と、かたく信じていたものならば、なおさらのこと、その無限大の微笑光びしょうこうをもって、かかる文業ふみわざも世の草々の一穂いっすいと眺めやるに過ぎまい。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その光のうちでも、藤吉郎の心の奥所おくがまでした大きな光は、まだひのきの板も新しい神棚の一穂いっすい神灯みあかしであった。また、次の間の仏壇のあかりであった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皆、その一穂いっすいを仰いだ。母堂の心のつつまれている白い物と、榊葉さかきばの青さとが、何か、清々すがすがしいものを人の胸へうつした。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
太子は、それを、まだ真の闇だった若い惨心一穂いっすいの灯となって、暗示して下すった第一のお方だった。後の苦難にたえた力は、その時の灯りの力である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じゃくとして——庵室のうちは静かなのである——ただ短檠たんけい一穂いっすいの灯が、そこの蔀簾しとみすだれのうちで夜風に揺れていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、むしろか、何かを敷いて、一脚の机と、一穂いっすいの寒燈を照し、あの五輪書を、書いたという。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晩になると、こまかい雨になり、明朝はここを立つのかと思うと、師直師泰も、さすが心はおだやかでなく、剃りこぼった頭を寒げに、一穂いっすいの灯を無口に見合っていた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十余年のあいだ、雨や風に、法勝寺の山荘も荒るるにまかせてあり、その当時の司権者であった平氏の一族が亡んでもまだ、ここには、一穂いっすいの法燈もかずにあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一穂いっすいの燭を横にして、凝視を相交あいかわしていることも、依然であった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一穂いっすいは、いつか有明ありあけめいている。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一穂いっすい
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)